岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

瀬戸内海にある島に唯一残る映画館で映画を観る楽しみ

2019年09月04日

洲本オリオン(兵庫県)

【住所】兵庫県洲本市本町5-4-8
【電話】0799-22-0265
【座席】99席

 神戸市の舞子から高速バスで1時間ほど…早朝の明石海峡大橋を渡って淡路島へ向かう。車窓から乳白色の初夏の海が空と一体となった幻想的な風景が見える。淡路島は温暖な気候に恵まれ、東は大阪湾、西は播磨灘に面した豊かな漁場として知られる。また、農業が盛んな島の内陸では瀬戸内特有の段々畑や棚田が広がり、島の特産である玉ねぎと牛肉を使った淡路島カレーが有名だ。

 洲本バスセンターに朝早く着き過ぎたので、まだ開いている店が無く、ぶらぶら歩いていると、懐かしい佇まいのアーケード商店街に出くわす。昔は関西でも指折りの商店街で、関西で一番の売上げを誇る本屋や、何故かジーンズが人気の服屋があったという。お正月やお盆には全島から人が集まり、先の方が人だかりで見えないほど賑わっていた。横道には「レトロこみち」という路地があって、古民家を利用した小さなお店が軒を連ねている。有難い事に美味しい朝粥を出している中国茶の専門店があったので、ここで朝食を済ませた。

 そんな路地の一角に突然、鮮やかなオレンジ色の建物が目に飛び込んでくる。島に唯一残る映画館「洲本オリオン」だ。まだ開場まで間があるというのに、劇場前には何組かの親子連れが待っている。そう…今日は久しぶりに映画が上映される日なのだ。セカンド上映にも関わらず、待ちに待った『美女と野獣』に子供たちのワクワク感が伝わってくる。ちなみに、洲本出身で映画好きとして知られる阿久悠さんも学生の頃に通われていたそうで、回想録で『荒野の決闘』をここで観た思い出を綴っている。

 「洲本オリオン」の前身は、戦前の「昭和館」という浄瑠璃を上演していた劇場にまで遡る。明治時代に北海道の開拓に失敗した創業者が興行師として全国を回り、その後、地元淡路島で劇場を建てたのが始まりだ。以来、代々家族で経営しており、現在は四代目館主の野口仁さんが島で唯一、映画の上映を続けている。映画を上映するようになったのは戦後間もなく。常設館ではなくお芝居と交互にやっていた。当時は、映画がつまらないと売店で売っていたラムネから取り出したビー玉をスクリーンに投げつける悪い輩もいたとか。

 現在の館名となったのは、洋画専門館らしい名前に…ということで、昭和26年に公募して「洲本オリオン」になった。昭和40年代後半には社会現象を巻き起こした『燃えよドラゴン』と『エマニエル夫人』が大ヒット。毎回立ち見で、お客さんは通路に新聞紙を敷いて観ていたという。現在は、地元でロケを行った熊切和嘉監督作品『夏の終り』から不定期上映に変えて、平日は音楽イベントや自主上映会などに貸し出しされている。また野口さんは、出張上映という形で、お呼びが掛かれば、島内どこでも赴き、配給会社との交渉も代行してくれる。お年寄りが多い島内では映画館に行くのもひと苦労だけに、こうした上映会が好評で、すぐにスケジュールが埋まるという。今でも島民にとって映画は無くてはならない娯楽なのだ。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2017年7月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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