岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

日本海の港町で映画の灯を守り続ける映画館

2020年05月27日

舞鶴八千代館(京都府)

【住所】京都府舞鶴市浜229
【電話】0773-62-3583
【座席】CINEMA1:156席 CINEMA2:72席 CINEMA3:77席

 京都から太秦のある嵯峨野線に乗って終点の園部へ向かう。車窓から見える雨に烟った嵯峨野の山を幾つも越え、更にそこから山陰本線と舞鶴線に乗り換えると日本海側にある港町の東舞鶴にたどり着く。もっと早い直通の快速もあるのだが、ゆっくりと景色を満喫したかったから、敢えて鈍行を選んだ。駅からまっすぐ港の方角に歩くこと5分、丹後街道を渡ってすぐの場所に街の映画館「舞鶴八千代館」がある。海が近いからだろうか、涼しい風に混じって潮の薫りが仄かに感じる。開場前に表のポスターを貼り替えている従業員に通りすがりのおじさんが、これいつからやるの?と尋ねてくる。住民の生活に映画がある…これが街の映画館の良さなのだ。

 入口のドアを開けると支配人(当時)の野村正男さんがロビーで掃除機をかけていた。支配人自らお掃除されるんですね…とお聞きすると「身体が動く間は何でもやりますよ」と気さくな笑顔を見せる。創業は古く、祖父・鎌太郎さんが、昭和13年に立ち上げた。客席数220席を有する木造の映画館は冷暖房完備で、2階は畳席となっており、左右には桟敷席が突き出していた。建物は昭和8年頃に完成しており、当初は「八千代館」という館名で、演芸や芝居などをやっていたが、山中貞夫監督の『河内山宗俊』から常設の映画館となり、専属の弁士もいたという。

 舞鶴には海軍の基地があり娯楽施設がこの辺に集中しており、最盛期には市内に他にも3館の映画館を持っており、東宝・松竹・東映・大映・日活作品を封切から二番館、三番館へ落としていくのも全て自館でできたそうだ。特に人気があったのは日活の渡り鳥シリーズや石原裕次郎主演作で、当時はテケツ(チケット売場)にあった金庫に入場料が入り切らなくなって、リンゴ箱にお札をどんどん入れていた。正月には一日の入場者が倍の2000人も入ったため、2階の桟敷席に立見客が集中してしまい、その重みで支えていた柱が折れて床が落ちた事もあったという。まさに映画が娯楽の中心だった時代の出来事で、日本映画黄金期と呼ばれる昭和30年代は、配給会社の売り込みも熾烈を極め、稼ぎ時の正月は映画館の奪い合いのため、自宅に映画会社の営業が泊まって、正月の入りの状況を見て帰ったそうだ。

 やがて映画の良き時代も次第に陰りを見え始めたのは、東京オリンピックでカラーテレビが安く手に入るようになった時。極端に入場者が落ちたため、単独の大劇場を埋め尽くすのは難しくなった。昭和56年には現在のビルに建て替え、2階に大小2スクリーン、1階には当時としては珍しかった回転寿司のテナントが入っており、2階へ上がる階段が映画館の入口だった。1館は東宝、もう1館では日活ロマンポルノを上映していた。

 リニューアルオープンしてしばらく経った時、野村さんにとって忘れられない出来事が起こった。正月映画第二弾を上映していた成人式の日、毎年、正月に休みを取れず京都伏見のお稲荷さんへお参りに出かけていた野村さんに「長蛇の列で大変な事になってる!」と連絡が入ったのだ。慌てて映画館に戻ると、薬師丸ひろ子主演の『セーラー服と機関銃』にできた若者たちの列が延々と続いていたのだ。「今でも忘れません…天気も悪く、雪が降っているので、こんな田舎でも警備員付けました」と振り返る。この記録は未だに抜かれていないという。

 最盛期には市内に8館もあった映画館も次々と閉館していった。このままでは先代が残した映画館が無くなってしまう…そう思った野村さんは京都を中心に映画の製作・企画から配給など幅広く手掛けるシマフィルム(株)に経営譲渡の話を持ちかけた。街に映画館の灯が残るなら、そのまま身を引いても良かったという野村さんも、そのまま支配人として残った。隅々まで知り尽くしている経験を活かしてお手伝いできるなら…と毎日のように地元のお客様を迎えている。「映画館におらしてもらえたら、私がやれる間は何とか続けたいと思いますよ」と笑う野村さん。こんな館主さんがいる限り、街から映画の灯は消える事はないだろう。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2016年6月

舞鶴八千代館のホームページはこちら
http://maizuru-yachiyo.com/index.html

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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