岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

歴史ある街並みを散策途中、ふと足を止めたくなる。

2024年04月17日

萩ツインシネマ(山口県)

【住所】山口県萩市東田町18-4 ヤングプラザ萩3F 
【電話】0838-21-5510
【座席】2スクリーン・165席

山口県の北部に位置する萩市は日本海に面した城下町で、市街地は阿武川を本流とする三角州にあって、分岐する松本川と橋本川が巨大な堀の役割を担っている。歴史愛好家にとっては、明治維新の原動力となった吉田松陰・高杉晋作・久坂玄瑞・伊藤博文等を輩出した場所として憧れの地だ。町をちょっと歩けば、吉田松陰や高杉晋作の生家や幕末から明治維新にかけて歴史ある建物群を見ることが出来る。萩は三方を山に囲まれているため乗り入れている鉄道は山陰本線のみで、山陽方面から来る人にとっては、県庁所在地の山口市から出ているバス便も充実しているので便利だ。バスは市街地に入る前に萩駅を経由するので、大正14年に創業された当時の姿を残す駅舎を見ることも出来る。現在は町の中心部に近い東萩駅がメインの駅となっており、スーツケースを抱えた多くの観光客がバスから降りてくる。

松本川沿いを港に向かって10分ほど歩くと江戸時代から回船業や水産業で栄えてきた浜崎地区という伝統的建造物群保存地区がある。区域内には江戸時代から昭和初期に建てられた建築物が138棟あり、現在も住居として使用されていたり、外観はそのままに内装をリノベーションしてカフェや雑貨屋として営業されていたりする。今回初めて訪れた萩だったが、見たい場所があまりに多過ぎて1日ではとても回り切れないと判断。そこで浜崎の町並みに絞って地図を持たず歩こうと思った。地図やスマホに頼らず歩いていると、昔ながらの町並みの中、現在も普通に暮らしている人たちの息吹を肌で感じられる。前を向いて歩いていればスマホの地図を見なくても吉田松陰の菩提寺である泉福寺に辿り着けるのだから、下を向いて歩くのは馬鹿馬鹿しく思えてきた。その近くにある航海の安全を祈願する住吉神社でお参りしていると、後ろの方で子どもたちが「神様さようなら」と、きちんと挨拶して帰る声が聞こえてくる。隣接する保育園の園児たちだ。大人も見習わなくては…と反省した。

東萩駅から松本川に架かる橋を渡って町の中心を南北に伸びる県道295号線を歩く。この県道には萩城址線という通り名があってその名の通り、町の西側にある萩城址指月公園まで伸びている。その通り沿いをしばらく歩くと、複合ビル「ヤング・プラザ・萩」が見える。昭和55年に竣工した当時としては珍しいシネコンの走りとも言えるファッションビルで、喫茶店やパブ等の飲食店とフラワーショップや舶来クセサリーの店が入っていたためオープン当時は多くの市民が訪れた。そのビルの3階に2スクリーンの映画館「萩ツインシネマ」がある。昭和55年12月14日に『萩キラク』という館名でオープンした町の映画館だ。

3階に上がると広いロビーがあって、至るところに昔の任侠映画や洋画のポスターが貼っていたり、本棚には昔のチラシをファイリングしたファイルケースが何冊も置かれていたり…映画館の歴史を見ることが出来る。映画ファンならば時が経つのも忘れてしまう場所だ。更に奥に進むと年代物の映写機が何台も展示されており、さながら「昭和の映画博物館」だ。それどころか「シネマ2」の場内は「映画館の椅子の博物館」である。前列・中列・後列に3種類の年代ものの椅子が設置されており、色々試して自分の好みの椅子を選べるのが楽しい。中でも前列と中列にある赤い椅子は座面と背もたれが連動したリクライニングとなっている贅沢な作りだ。シネコン慣れしている若者は映画館の椅子にこれだけ種類があることに驚くだろう。ブルーを基調とする「シネマ1」の場内で使用されている椅子も座りやすく、現在の客席数は前方の座席が取り払われ当初150席あった席数も今は35席となっている。

取材時に館長の柴田寿美子さんから「もし良かったら映画観ていって下さい。この映画…誰も入らないのよ」とお言葉をいただいた。その映画は柴田さんがプロデュースと主演も兼ねている自主映画『さよなら萩ツインシネマ』だ。この自虐的なタイトルの物語は「萩ツインシネマ」で毎年開催されている映画館が主催する「Ibasho映画祭」に応募作品が集まらないから今年で終わりにようと突然終了宣言した事に端を発して映画館も閉館する事態にまで発展するというもの。映画祭にエントリーした若手映画監督や家族を巻き込んで、映画館の存続というテーマをユーモアたっぷりに描いているコメディだ。柴田さんは正に体を張った名演技を披露してくれている。勿論、実際には映画館も映画祭も元気いっぱいに存続しているので、近くを通ったら受付にいるスタッフに見学をお願いすれば、快く応じてくれるので是非立ち寄ってもらいたい。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2023年11月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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