岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

逗子にあるシネマカフェで自由に映画を楽しもう。

2023年08月16日

シネマアミーゴ(神奈川県)

【住所】神奈川県逗子市新宿1-5-14 
【電話】046-873-5643
【座席】22席(可動式)

毎年夏になると多くの海水浴客が訪れる逗子海岸。コロナ明けの今年はそれまでの鬱憤を晴らすかのように、いつにも増して賑やかな夏となった。そんな海岸線を走る国道から一歩中に入ると、ビーチの喧噪が嘘のように閑静な住宅街が広がる。その一角にあるのが隠れ家のようなシネマカフェ「CINEMA AMIGO(シネマアミーゴ)」だ。民家をリノベーションした建物は、入口の看板がなければ見過ごしてしまうほど周辺のお屋敷に溶け込んでいる。

いい感じに苔が生している石段を上がってOPENのプレートがぶらさがるドアを開けると…細長い通路の先には22席ほどの客席を有したカフェスペースがある。お洒落なアンティークの椅子とテーブルが並び、来場者はその日の気分で好きな椅子を選ぶ。映画とワンドリンクのセットで1500円。入場料ではなくテーブルチャージというスタイルだ。またカフェスペースには仲間のクリエイターが手掛ける作品を販売するショップを併設している。天気の良い8月…ウッドデッキのオープンテラスで話をしてくれたのは発起人であり館長を務める長島源さんだ。ミュージシャンとして活動していた長島さんは、もっと広い世代と繋がれるものは何か?と考えていた矢先に、この物件に出会った。そこで映像や音楽などを盛り込んだトータルカルチャースペースを僅か4ヵ月でオープンしたのだ。

ところが、オープンして間もなく、長島さんは映画館経営の厳しさを目の当たりにしたという。想定よりも少ない集客に加えて、映画の配給システムも大きな壁となった。ただ、若い人たちがメインかと思っていたら、意外にも年輩のお客さんが多いのは嬉しい誤算。逗子という街の特性だろうか?若者とお年寄りが融合出来る場を目指していた長島さんにとって、ある意味この場所は最適な舞台と言えるかも知れない。当初は作品を集めるのに苦労したが、知り合いの伝を辿って少しずつ配給会社の数も増えてきた。今では朝から夕方までは年輩や主婦層に向けた作品、夜は若者向けの作品といった具合にターゲットに合わせたブッキングが出来るようになった。

隣接するオーガニックコンビニ の「AMIGO MARKET(アミーゴマーケット)」では厳選された地の食材を使ったフードメニューや、地元の農家が無農薬で作った野菜、蜂蜜やハーブティーなどを販売している。こちらで購入したデリや日替わりプレートはテイクアウトが出来るので、場内に持ち込んで食べながら映画を観る事も可能だし、天気の良い日はテラスで食事をするのも良い。最近では、仕事帰り夕食がてら映画を観る方も増えているそうだ。

逗子という場所にこだわり、都市に集中するクリエイティブ活動を地方からも発信できる流れを作ろうと考える長島さんは、毎年GW期間中に開催される「逗子海岸映画祭」を立ち上げ、実行委員長を務める。今年で11年目を迎えた映画祭は「Play with the earth(地球と遊ぼう)」をコンセプトに、国内外の優れた映画を逗子海岸の砂浜に設営したスクリーンで楽しめる。日中は上映作品の舞台となる地域の文化・音楽・食などを提供してくれるので、映画を多角的に堪能出来るのがイイ。日が沈んでから波音と星空をバックに、潮風に当たりながら映画を観賞出来る開放的な映画祭だ。

もっと気軽な映画空間を目指す「CINEMA AMIGO」。映画を観ているとき音を立てると冷ややかな目で見られる今どきの風潮に、疑問を抱く長島さんは次のように述べる。「子供の頃の映画館はかしこまった空間ではなく、ワイワイ騒いでいたはず。だから、もっと自由でイイのではないか」その思いは、「逗子海岸映画祭」や「CINEMA AMIGO」の観賞スタイルに表れている。笑いたい時に笑い、泣きたい時に泣く。時にはご飯を食べながらリラックスして映画を観賞する時間ごと楽しめる…もしかすると、そこで映像の向こうにある新しい何かが発見出来るかも知れない。

ここに来れば、映画と音楽と食があって情報発信もされている…そんな地域のトータルスペースになる事を目指して活動を続け、少しずつ形になってきた。スクリーンに投映される映像を静かに観賞するだけではなく映画の中に入り込む。そこに美味しい食事があれば最高ではないか。改めて思うのは、映画ってもっと開放的に楽しんでも良いエンターテイメントであるという事だ。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2015年8月(2023年7月加筆)

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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