岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

駅にある二つの映画館はたくさんの夢を運んできた。

2024年02月14日

京成ローザ10(千葉県)

【住所】千葉県千葉市中央区本千葉町15-1
【電話】050-6875-7611
【座席】「イースト館」6スクリーン・743席/「ウエスト館」4スクリーン・621席

千葉市の中心部に位置する京成千葉中央駅の改札を挟んで東口と西口に二つの映画館がある。「京成ローザ10」のイースト館とウエスト館だ。千葉県民が映画を観るならば誰もが一度は訪れているであろう老舗映画館である。私も新卒で就職して最初に配属されたのが駅前にあった事務所だったので仕事帰りは随分お世話になった。何より封切り作品が二本立てだったのがお金が無い新入社員には助かった。ちなみに当時の駅は京成千葉線の終着駅で京成千葉駅という駅名だった。昭和62年に国鉄からJRに変わったためJR千葉駅に隣接する国鉄駅前(このストレートな駅名が好きだった)が京成千葉駅になったためだ。私はちょうど駅名が切り替わる貴重な瞬間を目撃したわけだ。映画館の設立は戦後の混乱が落ち着いて、まさに高度経済成長に突入して間もない昭和33年6月15日。客席数692席を有する洋画の封切館として『カラマゾフの兄弟』と『武器よさらば』をこけら落しでオープンする。経営母体の京成電鉄は当時バラ園を経営しており、新しく映画館事業に乗り出した際に館名にイタリア語でバラを意味する「ローザ」を入れた。

元々、現在の千葉中央公園にあった京成千葉中央駅は、戦時中の千葉空襲で焼失したため現在の場所に移転した。そして終戦から8年…まだ周辺が野原だった場所に、地上4階、地下1階からなる京成千葉駅ビルが出現したのだ。その後「京成ローザ」をメイン館として館数を着実に増やしていく。私が勤めていた頃は、駅東口には「京成サンセット」と「千葉京成」、駅西口には「京成ウエスト」と「京成スタリオン」があって、駅そのものが映画街の様相を呈していた。国内でも珍しい駅を挟んで東西にある映画館というアクセスの良さから、千葉で映画を観るならここ!と多くの人たちが県内から集まったのは言うまでも無い。

駅に直結するホテルミラマーレは昭和36年より営業していた千葉京成ホテルを前身として平成14年に飲食店を併設する複合施設としてオープンした。4階に上がると6スクリーンを有する「京成ローザ10」のイースト館がある。ガラスの壁面から自然光が注ぐ広いロビーには地元のコミュニティFM「SKYWAVE FM」のサテライトスタジオがあり、ここでローカルアイドル・声優・俳優・文化人といった色んなジャンルの方が公開収録や生放送をされている様子を見ることが出来る。コンセッションでは定番メニューの他に、たい焼きが販売されており、映画を観ながら片手で食べられるので、これが意外と人気があるそうだ。更に、ありそうで無かったフライドチキンや原宿ドッグ…串に刺さった揚げもちまであるのは驚く。

「京成ローザ10」は、シネコンスタイルを取りつつ、古き良き時代の雰囲気をそのまま残している。昔から通う年配の常連から映画館デビューをする子供まで幅広い層が訪れる映画館だ。今も紙のスケジュール表をロビーに置いているのはネットを使わないお年寄りへの配慮だ。昔ながらの雰囲気を味わえるのが駅の西口にあるウエスト館だ。私が働いていた時からサーモンピンクの印象的な外壁は変わっていない。またエントランスに掲げられている懐かしいコルトン看板も当時のままで、年配の通行者は懐かしそうに見上げる。その横にあるポスターが貼られているショーケースは、昔から待ち合わせ場所の定番だった。まずはエレベーターで受付のある2階に上がるのだが、まだ自由席だった時代は、手前にある非常階段に長い列が出来ていた。若い頃、ここで観た『踊る大捜査線 THE MOVIE』では階段の下まで伸びた長い列に並んだのを覚えている。スクリーンは2階と4階にあって中間の3階に化粧室があるのも昔のまま。化粧室の案内表示が大きいのもフロアが異なるための配慮だ。

創業から65周年を迎えて常に新しい仕掛けを繰り出してきた「京成ローザ10」が力を入れているのがアニメだ。まだアニメと言えばジブリやガンダムという15年前に、いち早く深夜アニメの可能性を見出した。マニアックな作品でも劇場版になるほどの作品には根強いファンが付いており一定の集客がいるはず…という見込みは見事に的中した。県内ではここだけしか上映されていない作品に遠方からも多くのファンが訪れたのだ。アニメと言えば「京成ローザ10」という認識がアニメファンの中で広がり、映画の上映はある種のイベント化してきた。中でも『劇場版 黒子のバスケ LAST GAME』は初公開の翌年から毎年4月に行われる周年記念上映会が今も続いているのだから驚く。10年前に公開された新作ではない作品を毎年上映して全国からファンが集まっているのだ。その時期が近づくと、「そろそろやる頃だよね…」とファンの間でネットがざわつく現象が起きているそうだ。現在は「京成ローザ10」の年間ランキングの上位をアニメが占めるまでになった。ひとつの作品を大切に上映してくれる劇場の姿勢をアニメファンが高く評価してくれているのだろう。

「京成ローザ10」では長年変わらずに続けている事業がある。定期的に行われている出張上映だ。房総半島の木更津から先の映画館が無い街々をデジタル映写機とサーバーをタウンエースに積み込んで、各地域のホールで上映会を行なっているのだ。この地域に住んでいる方たちは映画を観に行くにも車で片道1時間も掛かってしまう。だからお年寄りや小さいお子さんがいる家庭だと映画が遠い存在になってしまう。出張上映はそんな街の人たちに大スクリーンで映画を観てもらいたいという思いから始まった。フィルム時代は移動用のポータブル映写機で一人で持ち運びも出来たが、今は映画館で使っているものとほぼ同じ(重量60キロもある)映写機なので二人掛かりの作業だ。いつも上映会場に行くと街の人たちから「ありがとう」とお礼を言われたり、「次は何を持って来てくれるの?」と楽しみにされている言葉を聞く。そんな様子を見ると必ず「また来ますね」という話になる。お年寄りには映画を観て元気になってもらい、子供たちには映画の良さを知ってもらう…映画は映画館を飛び出して多くの人たちに希望を与えてくれるのだ。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2023年9月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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