岐阜新聞 映画部

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面白い事なら何でもやっちゃうエンタメ三昧の映画館

2024年01月24日

【思い出の映画館】吉祥寺バウスシアター(東京都)

【住所】東京都武蔵野市吉祥寺本町1-11-23
【座席】3スクリーン・368席
※2014年6月10日をもちまして閉館いたしました

かつて多くの映画ファンから愛され支持されていた伝説の.と言っても過言ではない映画館が吉祥寺にあった。北口駅前から真っ直ぐ伸びるサンロード商店街沿いにあった『吉祥寺バウス・シアター』だ。前身は戦後間もない昭和26年に設立した「ムサシノ映画劇場」という洋画専門館だった。昭和59年に音楽ライブも行える映画館としてリニューアルすると、サブカル世代の若者たちが多く押し寄せた。今でこそ若者に人気のカフェが多く、住みたい街ランキング上位の常連の街だが、バブルの少し前までは庶民的な価格の定食屋や居酒屋がたくさんある普通の街だった。

「吉祥寺バウスシアター」に通うようになったのはリニューアルして間もない頃(まだ2館しかなかった)で、ここで初めて観たのが『蜘蛛女のキス』だった。3館体制となったのは平成12年からで、「バウス1」「バウス3」では東急系ロードショウ作品を専門に上映し、「バウス2/JAV」は単館系を上映していた。商店街から少し奥行ったところにある3つの映画館は、雑多な雰囲気が魅力的で、商店街の中華屋で腹ごしらえして梯子をしたものだった。

その当時は単館系の作品はシネコンで掛かることは殆ど無く、メジャー系と単館県を同じ場所で観る事が出来たのは映画ファンとしてはありがたかった。単館系の作品は「バウス1」「バウス3」でモーニングショーやレイトショーなどで関連作品の特集を組んでくれて、意外な掘り出し物に出会えたりした。ここに集まるお客さんはコアなファンが多いため、作品の選定には手を抜いていなかった。特にレイトショーの特集については徹底的にこだわっており、監督の特集を組んだならば、その監督の作品を全て集めてしまう。例えば、松岡錠司監督特集の時は、8mmや16mmの作品までプログラムに入れてしまうのだからファンにとっては貴重な特集上映だった。

イベントにも力を注いでおり、以前『ロッキー・ホラー・ショウ』の上映時はロビーにお客さんが溢れ、コンクリートの壁にひびが入った事もあった。毎年恒例の音楽映画特集では、ステージがある「バウス1」の特性を最大限に活かしてライブも行われた。元々「バウス1」は芝居小屋だったので、照明を自由に変化させたり稼働式のスクリーンは位置を前後させることでスペースを広げる事が出来たのでイベントを組みやすかった。ちなみに可動式のスクリーンは上映時でも威力を発揮して、シネスコサイズの映画の時はスクリーンを後ろに移動して、逆にビスタサイズの時は前に移動させるなど、一番観やすい状態にすることが可能だった。

「吉祥寺バウスシアター」では、錚々たるアーチストがイベントを行っていた。中でも印象的だったのは、2000年に他界した“どんと”も生前ライブを行っていた事から追悼番組として縁りのあるゲストを迎えてライブと上映会を開催した。ちなみに追悼ライブイベントをやって欲しいと望んだのは“どんと”の奥様だった。「吉祥寺バウスシアター」は、イベントの数が多いのが特徴的な劇場で、年に4回『落語会』を催していた。面白いものは積極的に何でも取り入れようという姿勢は最後まで変わらなかった。

映写技術には定評があり、映写技師を務めていたのは「ムサシノ映画劇場」の時代から続けられてきた方。特に音響に関しては、製作会社からチェックに来た撮影監督と音響監督からも「この映画館は音が良いですね」とお墨付きをもらえる程だ。その技術を更に磨きをかけて開催されたのが、オールナイトイベント「爆音で聴く映画の夜」だ。これは 「爆音映画祭」の減点とも言えるイベント上映会で、2008年から定例となり、やがて全国に波及する事となる。 次々と新しいカルチャーを提供してくれた「吉祥寺バウスシアター」も2014年6月10日 をもって長年の歴史に幕を下ろした。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2001年3月(2023年12月加筆)

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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