岐阜新聞 映画部

映画にまつわるエトセトラ

Rare film pickup

7本の珠玉の短編から見えるアニメ映画の可能性

2021年10月14日

山村浩二アニメーション世界への誘い

4大アニメーション映画祭を制覇した唯一無二の人

さる10月2日、岐阜新聞映画部では世界的なアニメーション映画監督・山村浩二氏をお招きして、特集上映とトークショーを開催した。CINEX映画塾では初の1日1回限りの上映会となった。

『頭山』(2002年)が米・アカデミー賞にノミネートされたというニュースを聞いた時、真っ先に「山村浩二って誰?」という言葉が思わず口をついた。アニメには詳しくないという言い訳を用意しても、その経歴を告げられても、認知などできるはずもなく、初めて聞いた名前だったと、素直に認めなければならない。

当時、山村監督は、仕事に追われる日々を送っていたという。それは勿論、アニメーションの仕事で、NHKの番組素材やCMなどを手がけていた。そんな時、気分転換の余儀(山村氏曰く)として、映画のアニメーションの製作に取りかかった。そこにはモチベーションを維持するためという、曖昧な建前の向こう側に、アニメーション映画への強い思いの丈を感じさせる。

その製作は、手作業によるもので、完成までには6年を要した。

『頭山』は江戸落語で、"ケチ" を主人公にした噺の ”枕" =小噺だったものを、八代・林家正蔵(彦六)が膨らませ一席にしたものだという。上方では「さくらんぼ」という題名で、故・桂枝雀が得意演目としてたが、印象では映画はこの枝雀版に近い。

ケチな男が、ある日、さくらんぼを種ごと食べ、男の頭から桜の芽が生えてくる。その芽はすくすくと男の頭上で成長し立派な木となる。桜は見事な花をつけ、それを聞きつけた近所の連中が、男の頭上、桜の木の下で花見をきめこみ、飲めや歌えの大騒ぎを擦り広げる…という荒唐無稽な噺。

映画では江戸から現代の東京に時代設定を変えている。主人公のケチな男の顔が画面から溢れる。どアップで頭上に生えた芽を見る男。その視点は客観から主観に変わり、自在に行き来する。語りは落語ではなく三味線奏の浪曲を用いている。時代空間を変えた上で、現代に古風な要素を混在させる。ちょっと不思議だが、粋な構成で独自の世界観が浮かび上がる。

語りを担当したのは浪曲師の国本武春。国本は浪曲師だがギターの弾き語りでコンサートもするアーティストで、本作のナレーションでは、語りだけにとどまることなく、脇役の声や効果音まで、声色を自在に操り、語りの変化を試みる。

山村監督は国本のコンサートを聴き、浪曲という枠を超えたその語りに可能性を感じ、映画の語りを依頼したという。

『年をとった鰐』(2005年)は、フランスの童話作家レオポルド・ショボーの「年をとったワニの話」を原作にしている。

とんでもなく長生きしたワニが故郷ナイルを追われるようにして離れ、辿り着いた海で12本足のタコのお嬢さんに出会う。出会うはずのない鰐とタコ、鰐にそそがれるタコの無償の愛。残酷でありながら究極の愛の物語は、かなり高尚な童話と思える。

アニメーションの技法は、『頭山』の線描とは違う、べた塗りに近く、まるで影絵を思わせるタッチで描かれる。そして色彩のマジックが実に効果的!

『こどもの形而上学』(2007年)では哲学を。『マイブリッジの糸』(2011年)では、映画の父・エドワード・マイブリッジへのオマージュを。『怪物学抄』(2016年)では、こども心たっぷりに生き物の世界を。『ゆめみのえ』(2019年)では、北斎の先駆者・鍬形蕙斎の描いた漫画を。

そして日本国内初上映となった『ホッキョクグマすっごくひま』(2021年)では、もじりにラップを重ねるという自由奔放さ、アニメーションのタッチは極限まで削ぎ落とされた線描。

作品毎に変わる技法、スクリーンサイズも、スタンダードからヴィスタ、シネスコと変化する。そこには創造者としての好奇心が溢れている。

アニメーションは日本を代表する文化=カルチャーとして世界に認知されている。現在、映画館にはアニメーションの新作が目白押しである。しかし、山村アニメーションはそれらとは一線を画す。アナログやデジタルという区分だけでは語りきれない違いがそこには存在する。

山村監督が強く影響を受けたロシアや東欧のアニメーション映画では、国が支えた工房が消滅してしまった。現在は名だたる巨匠たちですら、細々と活動を続けているという厳しい現実があるという。

山村監督は現在、東京藝術大学大学院映像研究科で教授として、学生に教えるという側に立っている。ちょうどその日、藝大の教え子でもある矢野ほなみさんの『骨噛み』が、第45回オタワ国際アニメーション映画祭でグランプリを受賞されたとの報が入った。そして、山村監督自身も初の長編を完成させている。立ち位置は変わっても創作の意欲が消えることはない。

スクリーンで見ることで味わえる豊かな感覚。それは視覚にとどまることなく聴覚にも及ぶ。たとえ数分でもそこに込められた作り手の思いは熱い。

CINEXのスクリーンに再び、山村アニメーションが上映されることを希望してやまない。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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