ものづくりの街にある映画館に溢れる観客の笑顔。
2023年11月27日
鯖江アレックスシネマ(福井県)
【住所】福井県鯖江市下河端町16-16-1 アル・プラザ鯖江内
【電話】0778-54-7720
【座席】7スクリーン・1186席
JR北陸本線・鯖江駅の隣にある北鯖江駅は、無人駅ながら電気精密機械などの工場が多く建ち並ぶ街として発展してきた。関西中京地区に隣接している福井県が、古くから交通の要衝として栄え、工業地帯の中核を担って来たからだ。駅から15分ほど工場街を歩くと、国道沿いにシネマコンプレックス「鯖江アレックスシネマ」が見えてくる。滋賀県と福井県を中心にシネコンを展開する有限会社アレックスが、東宝の直営館を引き継いで2008年3月1日にリニューアルオープンした。ショッピングセンターとボウリング場、ファミレスなどの飲食店が建ち並ぶ「アルプラザ鯖江」の敷地内にあって、独立した建物は駐車場から場内までワンフロア・フルフラットとなっている。北鯖江は工業地域である一方で、海と山に囲まれた豊かな自然の中に住宅地が広がる。そのため、工場で働くファミリー層や地元に慣れ親しんでいる年配層が多く暮らしている。こちらの映画館に来られるお客さんにとって、週末に家族で映画を観に行く事はちょっとしたイベントだ。その時はお金を惜しまずに、家族全員分のポップコーンやドリンクにチュリトスをどっさり買って、子供たちがおねだりするグッズをカゴにいっぱい入れて、ワイワイ言いながら入場する。そんな光景が当たり前のように見られるのが、ここの映画館の大きな特徴でもある。そこが都心にあるシネコンと少々異なるところだ。
若者たちが今までは映画や遊びに行く時は、金沢まで出て行ってしまうのが常だったが、近年は福井県でロケを行った映画が次々とヒットして以前より活気が出て来た。高校のダンスチームが全米大会で優勝するまでの実話を描いた『チア・ダン』と、弱小の競技カルタ部で団体優勝を目指す女子部長と部員たちの成長物語『ちはやふる』には多くの若者が詰めかけたのだ。主演の広瀬すずの人気も手伝って『チア・ダン』は興行収入が全国3位を記録した。公開時は御当地ならではのイベントが開催されて、モデルとなったダンス部・ジェッツのOBで結成されているチームが、舞台挨拶とパフォーマンスを披露した。また『ちはやふる』では広いロビーに畳を敷いてカルタの名人が本物の名人技を実演してくれた。他にも隣の池田町の森林でロケが行われた『ウッジョブ』では、駐車場にトラックを横付けして福井森林組合から丸太を使ったチェーンソーアートをロビーで展示した。その時はロビー中、杉の香りに包まれたという。中でも最も鯖江らしいイベントが開催されたのが『トイストーリー』だろう。近くにある高等専門学校の先生と生徒に協力してもらい玩具病院を開設したのだ。事前に「壊れた玩具があったら修理します」と告知したところ、大勢の子供たちが大切な玩具を持ってきたという。この着眼点はさすがものづくりの街ならではのユニークな発想だ。
福井県は商業や産業などの分野において、地場産業を守るという文化が根付いている。聞くところによると福井は日本で唯一、大手流通グループのショッピングモールが進出していない県だという。これも県内にある地元の企業を大切にしようという県民性の現れだ。また福井は、日本一社長が多い県でもある。ネジが無ければネジを作る会社を立ち上げたり、車のパーツが無ければパーツの製造会社を作ってきたから、自ずと社長が増えたわけだ。なるほど…欲しいものを県外から買うのではなく県内で作ってしまえば良いのだ。ものづくりが栄えたのは、必要だったら自分たちで作ろう…という意識の結果で、それだけに県民同士の繋がりはすごく強いという。このような県民性だから一度認めたものは長く応援してくれる。そんな地元の人たちに愛される映画館になれるよう「鯖江アレックスシネマ」は、映画だけではなくプラス・アルファを楽しんでもらえる工夫を続けているのだ。
出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2019年4月
語り手:大屋尚浩
平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。
語り手:大屋尚浩
平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。
福井県のほぼ中央に位置する鯖江市は、日本で流通している眼鏡の95%以上を生産している眼鏡の街だ。駅前には大きな眼鏡のモニュメントが設置され「めがねのまち さばえ」を街のキャッチコピーにしているほど、ここに暮らす多くの人たちが、眼鏡産業に関わっている。最近公開された北乃きい主演の『おしょりん』では、まだ眼鏡が広く認知されていなかった明治時代の福井で眼鏡産業の礎を築いた兄弟を描いていた。鯖江から南越前にかけて5つの市町で構成されている丹南エリアは、昔からものづくりが盛んな地域で、眼鏡のほかにも、越前和紙から漆器、打刃物、焼物、箪笥といった伝統工芸が今も息づき、多くの職人たちが住んでいる。水上勉の小説『越前竹人形』で有名になった竹人形でこんなエピソードもある。今でこそ県の郷土工芸品に指定されているが、元々は農閑期に村人たちが趣味で作っていたもので、作中に出て来たような精巧な細工は施されていなかった。映画や芝居がヒットすると、細工師たちが競って独自の竹人形を作るようになったのだ。『おしょりん』の中でも職人を帳場と呼ばれる班ごとに分けて競い合わせる場面があったが、元々、商売堅気と職人気質を持ち合わせた地盤なのだろう。近年ではものづくりを志して移住してくる若いクリエイターも増えているという。