岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

山間にある水郷の街で、映画に向き合う至福の時間

2018年04月11日

日田シネマテーク・リベルテ(大分県)

【住所】大分県日田市三本松2-6-25
【TEL】0973-24-7534
【座席】63席

 大分県北西部の山間にある盆地に日田という小さな街がある。山の頂から流れ込む幾本もの河川が、街の中心を流れる三隈川に合流して豊かな恵みをもたらしてきた。

初めて日田を訪れた7年前はまだ残暑が厳しい9月だった。大分駅から狭い山間部を縫って、今にも手が届きそうな緑のトンネルを走る電車は、まるで桃源郷に通じる道のように思えた。今回は、冬の日田を見たかったので、1月の終わりを選んで、福岡空港から高速バスで市内に入る。

 宿泊先は昭和の雰囲気が今も残る温泉街にある「よろづや」を選ぶ。20室しかないこぢんまりとした宿でゆっくり温泉を堪能した。昼食は旅館の近くにある昭和45年創業の「みくま飯店」で、日田で一番と評判の焼きそばを食べる。「遠いところからありがとうね〜」と、出してくれた焼きそばは、固めに焼き上げた中太麺とシャキシャキのもやしが甘辛のソースに絡んで本当に旨かった。また来たいと思う。夕暮れ時…部屋から見える街の灯りが水面に映る幻想的な風景に誘われて、ぶらぶら川沿いを散策した。すれ違う街の人たちから「こんばんは」と声を掛けられて気持ちが温かくなる。余談だが、駅の反対側にある豆田町には山の中なのに港町という町名がある。これは江戸時代に年貢米を舟で運ぶ河岸がここに建設され、川の港として栄えた事に由来している。水郷の街らしい史実だ。
 旅館から10分ほど歩いた場所にアストロボウルというボウリング場がある。外観は昭和の雰囲気が残るレトロな建物だが、意外にも毎日のように何かしらの大会やプロボウラーによるレッスンが行われており、場内は思った以上に賑わっているのに驚く。外に面したサンルーフの入口から2階に上がると、雑貨店かオーガニックカフェを思わせるロビーのミニシアター「日田シネマテーク・リベルテ」がある。現在、支配人を務める原茂樹さんが、休業状態の映画館を引き継いで復活させたのは2009年のこと。最初は周囲から反対されてのオープンだったが、今では九州だけではなく、日本全国のクリエイターから支持されるまでになった。ロビーでは、その思いに賛同するアーティストが自らの作品を販売したり、個展を開いたりしている。前回、日田杉でできた鉛筆を購入したのだが、香りが良く今も大切に(とうとう最後の1本になったが)使っている。
 「日田の人に観てもらいたい映画」をいつも念頭に置いて作品を選ぶ原さんは、上映する時は作り手の思いを大事にしている。だから、休憩時間も大音量でBGMを流すのではなく、厳選した豆で淹れた珈琲で、ゆったりとした気分で映画に向き合う準備をする時間を提供してくれるのだ。たくさんの人生が描かれている映画は正に「人生を学ぶ教科書」。そんな映画から何かを学んでもらえたら…と、ここでは上映開始の案内を学校のチャイムで知らせている。

出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2018年1月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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