岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

目の前を路面電車が通過する城下町の映画館

2022年01月26日

シネマ・クレール(岡山県)

【住所】岡山県岡山市北区丸の内1-5-1
【電話】086-231-0019
【座席】「スクリーン1・2」170席

路面電車のある街が好きだ。街路樹が立ち並ぶ広い通りを車と並走しながらゆっくりと走る光景がイイ。岡山市の中心部を走る明治時代に創業した市電は日本全国で一番短い路線距離で岡山駅から県庁や美術館のあるカルチャーゾーンと呼ばれる中心部までは10分足らず。終点の東山まで20分も掛からない距離だ。岡山駅から岡山城に向かって真っ直ぐ伸びる市電通りを走る電車を見ながら城下駅まで20分ほどの距離をブラブラと街並みを眺めながら歩く。夏の岡山はさすが晴れの国と言われるだけあって清々しいほどに広がる青空が気持ちよい。温暖な瀬戸内の気候に恵まれたフルーツ大国に来たのだから、通り沿いにあるカフェに入ってフルーツパフェを注文した。驚いたのはパフェに入っているフルーツの量。東京の感覚で考えていた量とは桁違いで、さすが「フルーツパフェの街」と銘打つだけのことはある。

城下駅のほど近く…日本三大庭園として有名な後楽園がある丸の内は、美術館や音楽ホールなどの施設が建ち並ぶ文化的水準の高い地域だ。市電が城下駅で折れ曲がり県庁通りに入って、しばらく歩いたところに「岡山禁酒会館」という酒飲みには厳しい名前の建物をみつけた。景気が悪くなった大正10年頃、社会情勢の不安から飲酒に溺れる人が増えていたことから当時の禁酒運動家の人たちが建設されたという。木造3階建の寄棟造の屋根とドイツ壁を模した外観は様式美にあふれ、国の登録有形文化財に指定されている。喫茶店好きの僕は1階にあるカフェに入って珈琲を注文する。平日の昼間だからか静かな店内で香り立つ珈琲を楽しむ贅沢な時間を満喫する。さっきまで女の子に人気のあるフルーツパフェの店にいたのが嘘のようだ。

そこから城下筋沿を歩いてすぐのところに、平成13年にオープンしたミニシアター「シネマ・クレール丸の内」がある。目の前を路面電車が走る優美なロケーションを誇るコンクリート打ちっぱなしの外壁が印象的な映画館だ。目立った看板は敢えて設置せず、映画のポスターも壁面のショーウインドウに貼っているだけ。ここが映画館とは気づかずに通り過ぎた観客から電話で問合せが入ることもしょっちゅうあるという。一歩、中に入るとクールな外観と対象的に奥行きのあるロビーはアットホームな感覚で明るく、常連さんが作ったPOPがアチコチに飾られていて、ひと目でファンに愛されている映画館であることが分かる。

前身はミニシアターという言葉がまだ聞き慣れない頃の昭和56年に、支配人の浜田高夫さんが立ち上げた自主上映団体「映像文化交流会」が始まりだった。浜田さんは全国チェーンでは掛からない作品を自ら16ミリ映写機を持ち運んでホールなどで月1回の上映会を行っていた。それからしばらくしてミニシアターブームが女性を中心に起こり、新しい配給会社も次々と設立され、上映回数もいつしか月5~6回に増えていた。浜田さんは35ミリ映写機とドルビー装置を揃えて、上映会の度にそんな重い機械を運んでいた。時間の制約があるホールではなく自分の映画館を持ちたい…と思い始めていた丁度その頃、美術館の向かいに貸し出し中の建物があると聞きつけ、早速、契約を結ぶとわずか8ヶ月足らずで映画館を平成6年12月にオープンする。それが岡山初のミニシアター「シネマ・クレール石関」の誕生(平成20年に閉館)であった。セミナールームを活用して映画講座やワークショップなどを開催しているうちに、マスコミに取り上げられる事も多くなった。こうして劇場の認知度が上がると共に来場者も着実に増え、浜田さんはいよいよ理想の映画館設立に向けて動き出す。そして、映画館を前提に建設された国内でも珍しい独立型ミニシアター「シネマ・クレール丸の内」を設立する。

スクリーンを中心に半円形に配置されたスタジアム形式の座席はどの位置からでも観やすく、遮音性に優れた壁面と最高の音響設備によって浜田さんが求めていた映画の中に入り込める空間が実現。耳と目の肥えた厳しいシネフィルからも高い評価を得ている。当初は1スクリーン体制からのスタートだったが、5年後には2スクリーン体制となり更に幅広いジャンルの作品を提供出来るようになった。決して映画館側からの好みだけをアピールしないように作品選びも心掛けているそうだ。ミニシアターブームの時に足繁く通っていた学生たちも20年以上が経過して今では社会人となり観客側の環境も変わってしまった。映画は何のためにあるか?改めて浜田さんは問いかける。「映画には観る事によって世界が広がり、自分の人生が豊かになる力を持っています。だから若者にこそもっと映画を観てもらいたい。感受性の強い学生時代にどれだけ映画を観るか…で、人生が大きく変わるはず」かつて幅広いジャンルの映画を岡山で観られるようにしたい…という思いから「シネマ・クレール」は誕生した。「厳しい時代だからこそ、初心を忘るべからずで乗り切りたい」と語っていた浜田さんの言葉が今も心に残っている。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2014年8月

「シネマ・クレール」のホームページはこちら
http://www.cinemaclair.co.jp

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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