岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

池袋の歓楽街にある映画館で街ごと映画を楽しむ。

2022年11月23日

シネマ・ロサ(東京都)

【住所】東京都豊島区西池袋1-37-12 ロサ会館 
【電話】03-3986-3713
【座席】2スクリーン 370席

池袋駅西口から程近くに「ロマンス通り」という200メートル程の裏通りがある。通りの名前からも昭和の香りが漂うこの界隈は、ネオン煌めく歓楽街として池袋の夜を照らし続けてきた。最近は呼び込みの姿もすっかり減ってしまったが、それでも夜の通りは賑やかだ。しばらく進むと左手に「ロサ会館」というピンクの壁面が目立つ8階建てのレジャービルが見えてくる。学生時代に池袋でゼミのコンパをやる時は、このビルの居酒屋を利用していた。乗り換えで池袋を拠点とする大学生ならば、誰もがこのビルのお世話になったはずだ。思い返せば学生時代は明るい時間に池袋を歩いた記憶がない。そんな「ロサ会館」に2つの映画館がある。スペイン語で薔薇という意味の館名を持つ「シネマ・ロサ」だ。ブルーとトリコロールカラーの場内と、カフェのような洒落たロビーが印象的な映画館だ。エントランスは表通りの「劇場通り」側にもあるのだが、駅から行く時は迷わずショートカット出来る「ロマンス通り」を使っている。

前身は、戦後間もない昭和21年12月にオープンした「シネマ・ロサ」「シネマ・セレサ」「シネマ・リリオ」(この3館にはスペイン語で、薔薇・桜・百合の名前が付いている)と、東宝の封切り館「シネマ東宝」という4つの映画館がかたまっていた区画となる。中でも「シネマ・ロサ」は木造二階建て客席626席を有する池袋で一番古い映画館だった。昭和30年代の日本映画黄金期には、邦画各社の封切り館が集まっていたこの場所は、連日多くの観客で賑わっていた。昭和43年に現在のビルに建て替えられても、2階に「シネマ・ロサ」地下に「シネマ・セレサ」が入って映画館事業は継続された。昭和50年代にロードショー館から、1300円という低料金でこだわりの二本立てを売りとする名画座へ転向すると、しばらくは変化に戸惑う常連客がいたものの、すぐにファンの間で定評が高まった。同じ池袋にあった老舗名画座「文芸坐」とは異なるプログラムだったので、駅を挟んで西口から東口へよく梯子をしたものだ。ちなみに、ここで観たエドワード・ヤン監督の『恐怖分子』と『恋愛時代』というファンには感涙ものの番組編成はベストチョイスだと思う。

しばらく二つの映画館では、ハリウッドを中心としたアメリカ映画とヨーロッパを中心としたアート系の映画を棲み分けして上映していた。平成10年以降は、陽の当たらない作品を取り上げる自主企画のレイトショーや、平成12年にはフランス映画『ブッシュ・ド・ノエル』を自主配給されるなど、他館とは異なる独特の異彩を放つようになる。更に「インディーズ・フィルム・ショウ」という若手作家をバックアップする上映会を行うと「ここに来れば何か面白い事をやっている」と期待して通う固定ファンも増えた。ちなみにバックアップされた入江悠監督の『SR サイタマノラッパー』をレイトショー公開した時は、初日は満席札止め(レイトショー初日動員記録1位)となり、ここのレイトショーは若手監督の登竜門と位置づけされている。また、映画学校「ニューシネマワークショップ」の映画祭では、学生が制作した作品の上映会場として提供されており、監督や出演者が登壇する舞台挨拶には、新しい才能をこの目で見ようと、毎回多くのファンが詰めかけている。

青江美奈の名曲「夜の池袋」の歌詞にあるように、やっぱり池袋は歌謡曲と夜の裏通りがよく似合う。夜の帳が下りる頃、通りに漂い始める猥雑な雰囲気が、「シネマ・ロサ」で上映されている映画にピッタリと付合する事がある。例えば、石井隆監督の『フィギュアなあなた』や『甘い鞭』のようなダークな非日常空間を描いた映画がそうだった。この時はあえて「シネマ・ロサ」のレイトショーを選んで行ったのだが…それが正解だった。夢とも現実ともつかない倒錯した世界を描いた映画を観終わって外に出た時、目の前に広がる繁華街のネオンと路地の暗闇に、一瞬、自分がまだ映画の世界にいるような錯覚に陥った。思えば、昔は裏通りにひっそりと佇んでいる映画館が多かったものだ。ミニシアターブーム以前の映画館は決して健全な場所ではなく、どこか闇溜まりのような部分があった。その後ろめたさをカバーしてくれたのが裏通りだった。残念ながら近年は新宿や川崎の繁華街からも裏通りにあった映画館は姿を消してしまった。その点においても表通りと裏通りに面した「シネマ・ロサ」の立地は映画を観るには理想的な環境だ。映画館の暗闇にどっぷり浸かった後に、駅へ向かう裏通りを歩く時間は、現実世界にゆっくり戻るために必要なのだ。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2001年3月

「シネマ・ロサ」のホームページはこちら
https://www.cinemarosa.net/

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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