岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

常に街ぐるみの発展を考え続けてきた映画館

2019年02月20日

岡山メルパ(岡山県)

【住所】岡山県岡山市北区駅前町1-4-23
【電話】086-221-0122
【座席】メルパ1:120席 メルパ2:60席 メルパ3:271席 メルパ4:197席

 鈴木清順監督作品『けんかえれじい』で、高橋英樹演じるケンカに明け暮れていた主人公が通っていたのは岡山の旧制中学校だった。やがて彼は「もっと大きなケンカをしにいく」と二・二六事件のあった東京へ旅立って行く。二・二六事件から間もなく、日本は戦争へ突入する。そして、昭和21年5月15日…岡山市は、大空襲によって焼け野原となり、駅前には焼き出された人々がヤミ市や靴磨きで何とか生計を立てていた。

 戦後、そんな打ちひしがれていた岡山市民に活力を取り戻そうと一人の男が立ち上がった。戦中、中国大陸に渡り煙草事業で成功し、終戦前に引き揚げて故郷・岡山で鉄工業を中心に事業を展開していた実業家の福武一二氏だ。

 福武氏は終戦と同時に今までの事業を止めて全私財を投げ打ち、岡山市民に映画で活力を取り戻してもらいたい…と映画館設立に全力を尽くした。駅前に木造二階建ての映画館「岡山松竹座(後の岡山東映)」がオープンすると、市民は新築の木の香りと劇場から流れてくる映画音楽に勇気と希望を与えられた。

 瞬く間に映画館を中心に急速に復興が進み、駅から西川緑道公園まで全長約280mの商店街が完成したのだ。昭和39年には岡山駅復興のランドマークだった「岡山東映」の大改装に踏み切り、関西でも類を見なかった豪華な映画館「70ミリ岡山グランド劇場」を再オープン。場内には分厚い絨毯が敷きつめられ、中には下駄を脱いで入場した観客もいたそうだ。

 瀬戸大橋が開通した昭和63年には、4スクリーンを有する「岡山メルパ」としてオープンすると、近郊から自転車でも来られる駅前の利便性から、お年寄りから子供まで幅広い年代に親しまれてきた。長年、地元密着型のスタイルを守り続けており、商店街のレシートを提示したり、中でもユニークなのは、岡山駅を経由する定期券を持っていれば、土日祝日限定で割引料金で観賞できるサービスだ。これは、休日も街に出てきてもらいたい…という思いから始めたもので、学生から社会人まで多くの駅利用者に喜ばれている。

 休日の場内では、今でも売り子さんがポップコーンを販売する懐かしい光景が見られるのが「岡山メルパ」の名物だ。1階にあるチケット窓口も手売りだったり、電話も音声案内ではなく全てスタッフが対応するなど、昔と変わらないお客様とのコミュニケーションを大事にしている。

 映画好きのスタッフが多いため、電話で映画について問い合わせをされると、つい熱が入ることもあるとか。どんな映画が上映されているか問い合わせただけなのに「面白そうだから、ほんならそれ観ようか」と来場される方も少なくない。だからこそ、昔も今も世代を越えた多くの市民に愛され続けているのだろう。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2014年8月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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