岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

紀伊半島の港町にある地元密着型の映画館

2020年06月10日

ジストシネマ田辺(和歌山県)

【住所】和歌山県田辺市稲成町字新江原3229 オークワ・パビリオンシテイ田辺店内
【電話】0739-24-0717
【座席】シネマ1:159席 シネマ2:95席 シネマ3:79席

 和歌山県の中南部に位置する田辺市は、紀伊半島最大の面積に人口7万人を有する和歌山市に次ぐ二番目に大きな街だ。紀勢本線の紀伊田辺駅前には武蔵坊弁慶の像が立ち、世界遺産・熊野古道の最寄り駅のひとつとして季節を問わず多くの観光客が訪れている。紀伊水道の入口に位置する田辺湾は流れる黒潮の影響で温暖な気候に恵まれ、紀州梅や南高梅の名産地として知られている。梅農家の方が多いため、梅の収穫期となる6月から7月までは繁忙期となり、この時季、梅農家は家族親戚が総動員で家の仕事を手伝わなくてはならないため、街で遊ぶ若者たちも少なくなるという。

 駅の西側には県内随一の味光路と呼ばれる飲屋街があって夜の帳もふけると通りをネオンサインや看板の灯りが通りを照らし始める。そこを抜けてしばらく歩くと、1996年10月24日にオープンしたショッピングモールのオークワ・パビリオンシティ田辺に、3スクリーンを有する映画館「ジストシネマ田辺」がある。経営母体である(株)オークワは、近畿・東海地方を中心に160店舗以上のスーパーマーケットを展開する地場企業であり、街に暮らす人たちとの距離感が近い地元密着型の映画館として、上映作品も時にはお客様のご意見に耳を傾けながら良質な作品を送り続けてきた。

 近隣には学校が多いため中高生の観客が多く、テレビスポットで流れている知名度の高い作品や子供向けアニメや話題作が中心となっており、記憶に新しいのは『劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急命令』といったドラマの劇場版にティーンの人気が集まった。また、興行の形態もユニークで『貞子』のようなホラーを土日だけ上映すると、夕方の回には多くの若者が来場して盛り上がるという。この海沿いのスモールタウンでは、ジョー・ダンテ監督のコメディ映画『マチネー/土曜の午後はキッスで始まる』で描かれていたマチネー興行が健在していることが嬉しい。3スクリーンしかないため、映画ファンの常連さんからは、単館系の作品もやって欲しい…と要望も寄せられるため、繁忙期を過ぎてからのセカンド上映で可能な限り幅広い作品を上映するようにしているという。

 近年、和歌山県では数多くのロケ撮影が行われており、地元と共に映画で盛り上がろう!という機運が高まっている。県内で撮影された映画はジストシネマ全館で応援してきた。数年前に県を挙げて取り組み串本町で撮影された日本とトルコの友好を描いた実話『海難1890』の公開時には、遠方の学校まで出張上映を行って、最終的には県内で超ロングランヒットを記録した。また、毎年11月に開催され、昨年で13回目を迎えた若手映画監督のコンペティションをメインとした「田辺・弁慶映画祭」にも地元の映画館として協力している。

 エレベーターで3階に上がると、どこか懐かしさを感じるロビーがある。今までは手売りされていたチケット売り場も昨年から自動券売機を導入して効率化を図っている。その一方で、ひとつひとつ手作りでのおもてなしも大切にされている。その顕著なものが奥の通路に貼っているスタッフお手製の作品紹介ポップだ。限られたスペースで詳しく情報を伝えようと宣材写真をコラージュして手書きで映画の見どころを紹介している。スタッフが空いた時間で、工夫しながら自発的に作ってくれているポップは温かみがある…と、お客様から好評だ。2階のボウリング場では、映画が始まるまでボウリングで時間を潰される方も多い。来場者にはボウリングの割引券を配っているからだろうか、平日の昼間は年輩の常連さんも増えているそうだ。まさにボウリングと映画が娯楽の中心だった世代にとって、ここは昔を思い出させる場所かも知れない。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2019年4月

ジストシネマ田辺のホームページはこちら
https://www.o-entertainment.co.jp/xyst_cinema/tanabe/information.html

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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