岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

遊園地の跡地に出来た商業施設で映画を観た後は…

2022年06月22日

小山シネマハーヴェスト(栃木県)

【住所】栃木県小山市喜沢1475 
【電話】0285-21-0050
【座席】8スクリーン 1489席

上野から新幹線で40分足らず…小山駅から車で15分程の場所に、かつて多くのファミリー層が訪れた一大レジャー施設があった。高度経済成長期真っ只中の昭和35年に開園以来、長年親しまれてきた「小山ゆうえんち」である。アトラクションだけではなく約20万平方メートルの広大な敷地内にはウォーターパークやアイススケート場、ヘルスセンターやショッピングセンターなどを有していた北関東最大のテーマパークだった。独特なフレーズのCMに誘われて、大学時代に一度だけ友人と遊びに行った事がある。昭和50年代後半の遊園地全盛期の頃で、東北新幹線が開通して間もなかったので、小山駅も賑わっていた。

ところが開園から47年が経った平成17年2月に「小山ゆうえんち」は惜しまれつつ閉園してしまう。その跡地に約70店舗の専門店で構成される街歩きをコンセプトにした大型ショッピングモール「おやまゆうえんハーヴェストウォーク」がオープンしたのは平成19年。70店もの専門店や飲食店、温浴施設を有する大人から子供まで楽しめるテーマパークの要素を盛り込んだ屋外型の商業施設だ。今でこそ路線バスが運行しているが、取材で再訪した10年前は、駅前のホテルから運行する送迎バスしかなかった。現在では、来場者が増えた事でバスの路線化が実現したというから事業として着実に成功したという事だろう。

「おやまゆうえんハーヴェストウォーク」は、私がイメージする郊外型の商業施設とは異なり、とてつもなく広い。まるでひとつの街だ。元々、広大な遊園地だった敷地を丸々使っているのだから当たり前なのだが、5つのエリアと屋外イベント広場に分かれている敷地は、屋内型のショッピングモールと異なり、街歩きをする感覚で買い物や飲食が出来るので実に楽しい。実は私の地元である横浜市と、この施設は意外な接点があった。遊園地時代の名物だったアンティークなメリーゴーランドは、そのまま現在もランドマークとして引き継がれているのだが、元々は横浜にあった遊園地「横浜ドリームランド」の閉園時に「小山ゆうえんち」に移設されたもの。ショップに囲まれた中庭のような場所(この空間にピッタリと収まっているメリーゴーランドは実に絵になる)で、今も現役で動いている姿になんだか嬉しくなった。

その中にあるシネマコンプレックス「小山シネマハーヴェスト」がオープンしたのは同年7月。栃木県内で戦後から映画館事業を続けている株式会社銀星会館が運営する。エントランス前には人気アトラクションであるウォータープラザがあって、GWを境に夏が過ぎるまでは噴水のシャワーではしゃぎ回る子供たちの歓声がこだまする。その騒ぎを横目に一歩映画館に足を踏み入れると世界は一転。七色に光が変化する照明のロビーが来場者を出迎えてくれる。まるで宇宙ステーションにいるようなイメージで、来場者はエントランスを通り抜けて、非日常的な映画の世界へ入って行く物語性のあるデザインとなっている。ロビー中央に立つフィルムをモチーフとした柱はモニュメント的な役割で、これから観る映画への期待感を否が応でも増長させる。時間と共に七色に変化する光はロビー全体を柔らかく包み込み、正にSF映画の世界にいるような気分にさせてくれるのだ。

他館に比べて座席の前後にゆとりを持たせ、思いっきり足を延ばせるのが特長の場内は、同じ系列の小山駅前にあった映画館「銀星座(現在のシネマロブレ5)」時代から常連のお客様にも好評を得ている。来場されるお客さんは若年層からファミリー層そしてシニア層と幅広く、機械に不慣れな年輩の方には対面販売という細かな対応をされている。それでも自動券売機に果敢に挑むお年寄りがいると丁寧に対応されている若いスタッフが印象的だった。取材時、アルバイトの皆さんの自然な笑顔が印象的だったので、マネージャーさんに尋ねると「マニュアル通りの接客ってお客様に分かってしまうんですよね。普段、親しい友達に見せる笑顔が一番良い表情だと思うんです」と答えてくれた。スタッフもお客様と一緒に楽しむ…というのを常に意識して接客されているという言葉に、なるほど…と納得した。映画が終わってロビーに出てくるお客さんがスタッフに声をかけている姿を眺めながら「小さな空間の中に何百人というお客様が同じ映画で笑って泣いて…そんな光景を見ると映画館で働いて良かったなぁと思います」と述べられたマネージャーさんの言葉が心に残る。

取材を終えて、せっかくなので、ちょうど良い時間で始まる映画を観た。終った頃はすっかり陽も落ちた夕食時。昼は宇都宮で餃子を食べたので、夜は少し軽めにしようと思い、ぶらぶらと飲食店を探す。勿論、こうした場所柄なので出店している店舗はチェーン店ばかりだが、ちょっと考えがあってフードコートで食事は早々に済ませた。その考えというのは隣の温泉施設で、ひとっ風呂浴びて帰ろうという算段だ。映画を観てお腹も満たしたのだから素直に帰れば良いのに、気になる事は全部やってしまいたいと思うのが貧乏性の性格の悪い癖。遊園地時代はヘルスセンターだった施設を天然温泉の立ち寄り湯に改装した「思川温泉」に寄り道する。露天風呂から一望出来る思川が、ちょうど温泉の手前で蛇行しているので、昼間ならばきっと良い眺望を見る事ができたであろう。この思川は森高千里の曲で有名な渡良瀬川の支流だ。「おもいがわ」という響きがイイ。温泉に浸かりながら、昔、山田洋次監督の『喜劇 一発勝負』で主人公のハナ肇が、この思川の河川敷で温泉を掘るシーンが撮影された事を思い出した。こうした予定外の行動も取材旅行の醍醐味のひとつ。おかげで思わぬところで名湯を発見する事ができた。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2012年10月

「小山シネマハーヴェスト」のホームページはこちら
https://www.ginsee.jp/

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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