岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

小江戸・川越で映画の灯を守り続けた老舗劇場

2021年06月23日

【思い出の映画館】シアターホームラン(埼玉県)

【住所】 埼玉県川越市松江町1-17-7
【座席】 399席
※2006年2月28日をもちまして閉館いたしました

池袋から私鉄急行の東武東上線に乗って1時間足らず。埼玉県川越市は小江戸と呼ばれる歴史ある建造物や社寺が建ち並ぶ情緒ある町だ。駅前から真っすぐ延びる賑やかな商店街を抜けるとタイムスリップしたかのような町並みが広がる。昔はこの松江町界隈が川越の中心部だったが、大正4年に鉄道が建設される計画が持ち上がると、町の外から変な人種が流れて来る事を恐れた地元の商工会が町外れに駅を作るように要請した。結局、現在は駅を中心に人の流れが変わってしまい松江町が町外れになってしまった。川越は交通の便が良いベッドタウンのため、バブル期に駅を中心とした土地は軒並み高騰を続け、駅前は再開発の名の下に新しい建物がどんどん建てられていった。ところが、駅から30分近く離れた松江町は幸いにも再開発の影響を受けず、おかげで昔ながらの景観を留めることが出来たわけだ。町の中心部に位置する「時の鐘」は約400年前から城下町に時を知らせて来た川越のシンボルで、現在も1日に4回、時を知らせる現役である。また昭和初期に70軒近くの菓子屋が軒を連ねた菓子屋横丁があり、今でも多くの老舗が懐かしい姿を残している。

川越と言えば思い出されるのが、野村芳太郎監督の大ヒット作『鬼畜』である。緒形拳演じる小さな印刷所を経営する男が、愛人との間に設けた3人の子供を押し付けられ、その子供たちを始末するために、東京タワーに置き去りにしたり、崖の上から殺そうとする…あまりにも残酷な内容と、それでも親をかばおうとする子供の一途な姿に多くの観客の涙を誘った。その印刷所のある場所が松江町で、冒頭3人の子供たちの手を引いて、蔵造りの町並みが続く県道を歩く小川真由美の姿が俯瞰で捉えられる。『鬼畜』が撮影されたロケ地の近くにイエローのボーダーラインが特徴的な映画館があった。戦後間もない昭和25年より数多くの映画をユニークな番組編成で送り続けてきた名物映画館「シアターホームラン(旧ホームラン劇場)」である。館名にホームランと入れたのは、戦後人気があったスポーツである野球にあやかって一発大当たりを願って命名したものである。

当時は芝居も上演出来る設計となっており2階席は畳敷きの桟敷席になっていた。映画を掛ければ何をやってもお客が入る時代だったため、まだ2階席が完成していないのに、無理矢理こけら落としを迎えたそうだ。当初は松竹の二番館としてスタートしたが、後に東映(当時の東横映画)の専門館となり『ひめゆりの塔』のヒットを契機に「川越東映劇場」と館名を変えて再スタートを切った。日米講和条約のため製作が禁止になっていた時代劇が昭和30年代に入って再開されると、劇場の周りをグルリと長蛇の列が取り囲む観客が詰めかけて『笛吹童子』の公開時は、切符を手渡す時間が無いのでお金をもらってそのまま入場させる「もぎり込み」をやっていたという。

任侠映画の大スター藤純子が引退すると、それまで盛り上がりを見せていた時代劇や任侠映画ブームが終焉を迎え、昭和40年代に館名を「シアターホームラン」に戻し、東映と松竹のユニークな二本立興行で人気を博していた。東映の『トラック野郎』と松竹の『男はつらいよ』のトラトラ(寅)二本立といった夢のような贅沢な組み合わせを行ったり、子供に人気のあるアニメと文部省推薦の作品を組み合わせるなど、魅力的な番組編成に導かれて多くの映画ファンが朝から晩まで映画館で過ごしていた。昭和63年のリニューアル時に300席あった劇場を3スクリーンを有するイエローのボーダーラインが特徴的なビルにリニューアル。1階にチケット窓口を集約してロビーではもち米玄米を販売するなど地域に密着した映画館となった。また地元小学校の生徒に鉛筆をプレゼントしたり、埼玉県が製作する35ミリの福祉映画を幕間に上映するなど社会貢献を行っていた。そんな地元の人たちに愛され続けて来た「シアターホームラン」が、2006年2月に56年の歴史に幕を下ろした。ラストショーは、これまで劇場を支えてくれたお客様への感謝を込めて『七人の侍』や『ゴジラ』など名作の1000円興行だった。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2005年12月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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