岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

上質な映画を上質な空間で、贅沢な時間を過ごす。

2023年03月08日

Bunkamura ル・シネマ(東京都)

【住所】東京都渋谷区道玄坂2-24-1
【電話】03-3477-9264
【座席】2スクリーン 276席

1980年代から渋谷はミニシアターの聖地と呼ばれるようなった。最盛期にはハチ公口を中心に扇状に10館以上(約20スクリーン)のミニシアターが次々と設立された。それまで敷居の高かったアート系作品をコアな映画ファンから幅広い層に拡充したという点で、映画界における渋谷の貢献度は賞賛に値すると思う。中でも1980年代にオープンした 「シネセゾン渋谷」 「シネマライズ」「Bunkamuraル・シネマ」の3館はミニシアターブームを牽引し、映画と言えばハリウッドの話題作にしか興味を示さなかった若者に、映画にファッション性を持たせる新しいアプローチを行い成功した。

渋谷駅から文化村通りを10分ほど上がって行くと、センター街の喧騒も少なくなり、落ち着いた雰囲気が漂ってくる。そんな場所に建つのが、渋谷のシンボルでもある老舗百貨店の「東急百貨店本店」だ(2023年1月末日をもって営業終了)。1989年の秋には隣接する駐車場を改装して「大人のお客様が楽しむ施設」をコンセプトとした美術館や劇場などが入る「Bunkamura」が完成した。地下から階上まで吹き抜けとなっており、地下にあるカフェレストラン「ドゥマゴ パリ」で、良い映画やお芝居を観た後は、ちょっと背伸びしてお茶をする「ささやかな贅沢」を楽しんだ。そんな新しいタイプの複合型文化施設にある「Bunkamura ル・シネマ」は、渋谷系ミニシアターの中でも少しだけ日常から離れて上質な体験をさせてくれる映画館だった。上映までロビー奥にあるスタンドバーで、ドリンクを飲みながらフライヤーを眺めて過ごす。以前は劇場前にシネマ・ショップがあって、パンフレットのバックナンバーや関連グッズが充実していたので、あれこれ物色していると、あっという間に待ち時間が過ぎて慌てて場内に駆け込んだ事もあった。

同じ東急グループが運営する「シネマスクエアとうきゅう」が、既にミニシアターの先駆けとして成功しており、運営にあたっては、そのノウハウを取り入れたという。グランドオープニング作品のイザベル・アジャーニ主演『カミーユ・クローデル』には、年輩のご婦人やご夫婦が多く訪れて全ての回が満席となり、更にロングランヒットを記録した。19世紀末に実在した女性彫刻家とロダンの愛を描いたフランス映画は「Bunkamura」のコンセプトにマッチしており「Bunkamura ル・シネマ」を語る上で欠かせない作品となった。その『カミーユ・クローデル』のリバイバル上映時には、美術館の「ザ・ミュージアム」でカミーユ・クローデル展が開催され、またカルロス・サウラ監督『イベリア 魂のフラメンコ』公開時には、主演のアイーダ・ゴメスらが「オーチャードホール」での公演を行うなど、ル・シネマと他のBunkamura館内施設の連動企画も多く、映画の世界をあらゆる形で広げて見せてくれた。

女性客がメインのため上映作品に関しては、女性を意識した作品を意図的に取り入れ、最初の頃はフランス映画が多かった。ここで観た『美しき諍い女』のエマニュエル・べアールの美しさに目を見張り、『トリコロール』 三部作ではクシシュトフ・キェシロフスキ監督の豊かな作家性に魅了された。また『髪結いの亭主』は日本でいち早くパトリス・ルコント監督の名を知らしめて、本国フランスよりも日本の人気が高いと言われているほどだ。常に話題性よりも優れた作家性を重要視しており、例年カンヌ国際映画祭へ直接赴き、配給会社に「この映画をぜひともに日本に紹介しましょう」と、持ちかけることもあるという。 カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した時にプレゼンターのソフィ・マルソーから酷評された『ロゼッタ』を上映してくれた時は拍手を送りたくなった。1994年に公開したチェン・カイコー監督の『さらば、わが愛/覇王別妃』が大ヒットしてからは、中国を筆頭に『夏至』や『オアシス』等のアジア映画も上映するようになる。

長年、世界中から優れた映画を紹介するオピニオン・リーダーとして存在してきた「Bunkamura ル・シネマ」だが、「Bunkamura」の休館に伴い、現在の場所での営業は2023年4月9日(日)をもって一時的に終了となる。オープン時から通っていた私としては寂しさは拭えないが、6月より昨年末に閉館した「渋谷 TOEI」跡地にて「 Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下」 として継続する事が発表されて一安心。柿落としに、マギー・チャン レトロスペクティブとミュージカル映画特集にてオープニングを飾る。何より「Bunkamura」のブランドはそのままというのがファンとして嬉しい限りだ。館内には「ドゥ マゴ パリ」のスタンドカフェも併設される予定という。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2000年8月(2023年3月加筆)

「Bunkamura ル・シネマ」のホームページはこちら
https://www.bunkamura.co.jp/cinema/

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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