岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

創設百周年を迎えた新宿の伝説的映画館

2020年09月30日

新宿武蔵野館(東京都)

【住所】東京都新宿区新宿3-27-10 武蔵野ビル3F
【電話】03-3354-5670
【座席】SCREEN1:128席 SCREEN2:83席 SCREEN3:85席

 今年、令和2年6月30日…創設百年を迎えた映画館がある。東京最大のターミナル駅として延べ350万人以上が乗降する新宿駅東口にある「武蔵野館」だ。駅の地下からそのまま行ける武蔵野ビル3階にある3スクリーンを有するミニシアターは、新宿三丁目に「映画の殿堂」と謳われて、客席数600席、木造鉄筋三階建で、大正9年6月30日創業の老舗映画館である。当時、映画を観ると言えば銀座・浅草が中心だった時代。一方で新宿三丁目界隈と言えば、夕方になると人通りも少なくなる古びた商店街で、そんな街に映画館を建設する事に業界の人間は驚いたという。そんな新宿の発展のために映画館で人が呼べないか…商店街の有志が集まって「武蔵野館」は誕生した。

 しかし、新宿の街を二分していた市電車庫の前で新規参入した「武蔵野館」には、集客は見込めないであろうと、大手の日活から配給を受けられず、当時としては二番手と言われる国活が製作する邦画と大活が輸入する洋画をメインにプログラムされていた。それから3年後、大きな転機が訪れた。大正12年に発生した関東大震災によって、人の流れや街の構造が下町から山の手に移ってしまったのだ。その年を境に「武蔵野館」では連日満員記録が打ち立てられる程となり、名実共に一流館の仲間入りを果たした。それまで二番館だったのが封切館に格上げされて、無声映画時代の弁士・徳川夢声も専属となった。また、入場時に無料で配布される20ページに及ぶ劇場オリジナルのプログラム「ムサシノ・ウィークリー」は、細かに解説や評論が掲載され、人々は未だ見ぬ世界をそこで知る事ができた。

 木造建築の初代「武蔵野館」は、昭和3年12月14日に新宿三丁目から現在の場所に移転。鉄筋コンクリート三階建て1155席の大劇場となってリニューアルオープンする。翌年の昭和6年には日本初のトーキー『モロッコ』が公開され大ヒットを記録した。

 太平洋戦争中は、ナチスドイツのプロパガンダ映画や戦意高揚映画の上映を余儀なくされた暗黒の時代が続き、東京大空襲で劇場内部は焼け焦げたものの全壊を免れ、戦後は焦土と化した新宿の復興のシンボルとなった。そして数多くのハリウッドの名作が堰を切ったように日本に輸入され、チャップリンの『黄金狂時代』や『カサブランカ』が公開され、昭和32年にはジョン・ウェインが舞台挨拶に訪れて話題になる等ピークを迎えた。

 昭和43年には地上7階建ての飲食店やアパレル店が入る複合施設「新宿武蔵野ビル」を設立。7階に500席のロードショー館「武蔵野館」、平成6年には3階に3スクリーンを有するミニシアター「シネマ・カリテ」をオープンした。当時はロビーの壁面を飾る大きなアリスの絵とシルクロード美術館がある映画館として話題を呼んだ。3つあるスクリーンの特性を活かして、2館をロードショウ作品、1館をミニシアター系の国籍・ジャンルを問わず世界の秀作や、名画座としてハリウッド・クラシックスの上映をしていた。当時、ミニシアターといえば渋谷が中心地だったため固定ファンを付けるために作品選びから並々ならぬ努力が必要だった。「女性に優しい映画館」というキャッチフレーズでオープンしただけに、上映作品にはヨーロッパやアジアから名作を集め、ロビーのお洒落な演出と併設されたヨーロピアン・スタイルのカフェで開催されるトークショウ等のイベントによって女性客を取り込む事に成功した。

 平成15年9月に7階の「武蔵野館」が閉館されると「シネマ・カリテ」に伝統の館名は引き継がれた。(現在「シネマ・カリテ」は平成24年より新宿駅東口前にてミニシアター「シネマカリテ」として営業中)4年前には約1年にも及ぶ大規模リニューアル工事を行ない、平成28年11月5日、ロビーの演出を更にパワーアップしてリニューアルオープンした。エレベーターを降りてチケット売り場からロビーの奥に目をやると、今や名物と言っても過言ではない作品のイメージに合わせて内容を変えている大きな水槽が見える。中には映画の世界観に合わせた魚や爬虫類など滅多にお目に掛かれないような水棲生物が入っており、これを楽しみにしている常連も多い。ロビーの各所にはスタッフが手法を凝らした上映作品の衣裳や小道具を展示しており、上映までの待ち時間は映画の世界にいるようだ。以前は、女性を意識した映画館としてヨーロッパやアジアからの名作を送り続けていたが、近年はツウ好みのマニアックな作品も幅広く取り入れ、男性のファンも多く来場されるようになった。キワモノからB級C級、ティーンエイジャーまで…このバラエティーに富んだ作品群だからこそ、ラインナップを見るだけでも映画館への期待も自然と高まるのだ。

 10年前に比べて東京の映画館の構図は渋谷から再び新宿へと移り、今やこのエリアに9館の映画館が建ち並ぶ、都内で一番多くの映画を上映する激戦区となった。創業百年を迎えた今年は、世界的にも新しい生活様式が求められるようになり、興行界にも今までには考えられなかった新しい形態が必要になった。かつて、東京大空襲で劇場内部を焼きながらも全壊を免れ、焦土と化した新宿復興のシンボルとして庶民に夢を提供し続けた「新宿武蔵野館」。次の百年に向けて再び新宿のシンボルとして素晴らしい映画を提供し続けてくれるだろう。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2020年6月

新宿武蔵野館のホームページはこちら
http://shinjuku.musashino-k.jp/

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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