岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

今こそ地元の人たちとスクラム組んで街を盛り上げる。

2023年02月15日

アースシネマズ姫路(兵庫県)

【住所】兵庫県姫路市駅前町27 テラッソ姫路4F 
【電話】079-287-8800
【座席】12スクリーン 2007席

最近ワイドショーでは「ブラック校則」なる言葉をよく耳にする。自分が学生の頃は気づかなかったが、今思えば理不尽な規則がたくさんあった。そんな規律を突きつける大学と対峙する女子学生たちの姿を描いた映画が戦後間もない昭和29年にもあった。松竹で作られた木下恵介監督作品『女の園』だ。良妻賢母の育成を掲げる学校の行き過ぎた校則に女学生たちが抗議する。京都にある全寮制の女子大では寮母が絶対的な権力を握っており、手紙を勝手に検閲して男女交際にまで口を出してくる。そんな厳しい規則を撤廃するよう学校と寮に要求する学生たちを描く。冷徹な寮母を演じた高峰三枝子の姿は、『カッコーの巣の上で』でルイーズ・フレッチャーが扮した看護婦長の原点ではないかとすら思える迫真の演技を見せる。

そんな厳しい規則によって恋人との仲を割かれて自殺してしまう悲劇のヒロインを高峰秀子が熱演した。彼女は姫路にある問屋の娘で、自分の置かれた境遇に「姫路に生まれてくる女は、みんな悲しい運命に流されている」と田村高廣演じる恋人に胸中を訴える。姫路城で撮影されたこのシーンを映画評価家の淀川長治が「筆では描かれない映画だからこそあれだけの美しさが生まれるのである」と絶賛されていた。正に石垣にもたれて語りあう二人の背景に姫路城の天守閣を臨む構図は素晴らしかった。彼女は「どうしてこの町には悲しい女の遺跡ばかりが多いのでしょう…」と続ける。城内には井原西鶴や近松門左衛門が戯曲に書かれた許されぬ恋で非業の死を遂げた「お夏・清十郎の比翼塚」があり、毎年夏に二人の霊を弔う祭りが開催されている。岡本綺堂原作の怪談『番町皿屋敷』で有名な「お菊井戸」があるのも城内だ。確かに姫路には悲恋に果てた女性の話しが多い。東京へ帰る恋人が乗る列車に天守閣から白いハンカチを振るヒロインの姿は涙を誘う。

三ノ宮からJR神戸線新快速で40分。姫路駅に降り立つと真っ直ぐ伸びる大手前通りの正面に姫路城が見える。『女の園』でもまだビルが無い通りの向こうに見える姫路城のカットがあったが、60年以上が経ってもその景観は変わらない。姫路市は兵庫県南西部の播磨平野に位置する人口53万人の大きな街で、ふたつの線が乗り入れるアクセスの良さから神戸・大阪のベッドタウンとして栄えてきた。平成27年には駅前の大規模な再開発が完了して、世界遺産を擁する城下町の風情をそのままに、3つのゾーンに区分けされた新しい街が形成された。再開発によって古い街並が消滅するのではなく、駅前にある「みゆき通り商店街」と「おみぞ筋商店街」という昔ながらの商店街も共存している。その中のコアゾーンと呼ばれる宿泊施設や教育施設が集まる区域に建つ複合商業施設「テラッソ姫路」にシネマコンプレックス「アースシネマズ姫路」がある。前身は昭和7年創業の映画館「シネパレス山陽座(創業時の館名は山陽座)」で、戦後の映画黄金期を支え、幅広いラインナップで中高生を中心に親しまれていた街の映画館だった。そのバトンを引き継いだ「アースシネマズ姫路」もまた中高生から圧倒的な支持を得ており、作品によっては全国上位にランキングされるなどズバ抜けた数字を叩き出している。

オープン当時、姫路城の御柱と梁をイメージした伝統美と格式をモダンに融合する館内のデザインが話題となった「アースシネマズ姫路」。7年目を迎えた2021年10月に大幅なリニューアルを行い、今の時代に符合した新しいシネコンとなって生まれ変わった。ガラスで仕切られたエントランスから入場すると、目の前の壁面には巨大プロジェクションマッピングが投影され、否が応でも映画への期待感が高まる。城下町らしさが溢れる和モダンのデザインが施されたコリドーを進むと、姫路城や好古園など地域にゆかりのある風物のデザインが施されたスクリーンの扉が並ぶ。また、環境に対する配慮が館内の随所に施されており、コリドー壁面には、火力発電所で発生する石炭灰やコーヒーショップの使用済みコーヒー豆などの様々な廃棄物を原料とした再生材セメントパネルを採用。更に、姫路市で創業したウシオ電機グループのウシオエンターテインメントホールディングス株式会社による有人環境下で使用できる抗ウイルス・除菌用紫外線照射装置を映画館では初めて導入している。大都市にも負けない魅力ある映画館を目指してきた「アースシネマズ姫路」は、今回のリニューアルで更に一歩前に踏み出して、伝統の中に最新の技術を取り入れ、誰もが安心して楽しめる安全な空間を作り上げたのだ。

「アースシネマズ姫路」の特徴として、以下の3つの設備がある。「4DX SCREEN」シアターは、体感型アトラクションシアター「4DX」と3面マルチプロジェクション上映システム「ScreenX」が融合した体感型シアターで、今までにないダイナミックな映画体験が可能だ。また、DTS社が10年の年月をかけて開発した新しいサラウンドフォーマットをGDC社がプロデュースして完成した「GDC featuring dts-X」。日本全国でもわずか数館のみであるこの「DTS:X®」をシアター3と9に導入。空間を縦横無尽に動き回る様な、これまで体感した事のない臨場感を実現する立体音響テクノロジーだ。シアター3と9には従来の音響を超える360度、音のドームに包み込まれる様な立体音響が体感出来る「DLBY ATMOS」も導入されている。大迫力な効果音だけでなく、まるで映像のシーンに居合わせた様な空気感を表現する。視聴者の周囲全体に、パワフルな没入感と情緒体験で、生き生きとしたエンタテインメントを届けてくれる。

次第に日常を取り戻しつつある現在、多くのファンは以前のようなイベントが再開されるのを待ち焦がれている。昔から「東の神戸。西の姫路」と言われているだけに姫路市民は「神戸には負けてへんで!」という意識が強いという。だからこそ、地元の企業や商店街が協力して、ガッチリ地元でスクラムを組んで応援し合う気質を持っている。オープンから攻めの姿勢で挑み続けてきた「アースシネマズ姫路」だからこそ、再び地域を盛り上げる起爆剤となることを市民は期待しているのだ。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2018年8月

「アースシネマズ姫路」のホームページはこちら
https://earthcinemas.co.jp/

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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