岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

お客さんと一緒に映画を楽しむスタッフがいる映画館。

2023年01月25日

敦賀アレックスシネマ(福井県)

【住所】福井県敦賀市白銀町11-5 アルプラザ6F
【電話】0770-25-3737
【座席】4スクリーン 698席

福井駅から北陸本線の快速で40分ほど。三方を山に囲まれた敦賀湾に面する港町・敦賀市に向かう。海あり山ありの自然豊かな扇状地で天然の良港として知られている敦賀は、昔から水揚げされた魚を大阪に運ぶ物流の要衝である。今は休線となっているが、敦賀港まで延びる貨物の専用線があって、本来この敦賀港駅が明治15年の開業時の敦賀駅だった。街の南に敦賀富士と呼ばれる野坂岳、北を鉢伏山に挟まれているため、敦賀はかつて陸の孤島と呼ばれていた。電車が越前市を過ぎたあたりで滋賀県まで連なる奥深い山中に入る。車窓から山岳信仰の霊山である日野山が見えると「トンネルに入るのでしばらく携帯が使えなくなります」という車内アナウンス(珍しい)が流れた。今庄駅と敦賀駅の間には、全長13キロもの北陸トンネルがあって、通過するのに8分くらい掛かるのだ。トンネルが開通する以前は、鉢伏山の峠を越えなくてはならず、県内でも行き来する事は容易では無かった。

敦賀と言えば、真っ先に思い出す映画が、降旗康男監督作品の『夜叉』だ。高倉健演じる裏社会で生きて来た男が足を洗って、漁師として堅気の人生を歩もうとするが、町で小料理屋を経営する田中裕子演じる女将の元に身を寄せるチンピラ(ビートたけしが好演!)によって、ヤクザだった過去を知られてしまう。タイトルは主人公の背中に彫られた人を喰らう鬼神(夜叉)の刺青を指す。舞台となる猟師町が、敦賀から小浜線で20分ほど離れた美浜町。木村大作のカメラが捉える冬の日本海の荒波が打ちつける映像が印象に残る。冒頭、主人公が親に内緒で東京に出る仲間の息子を船で送ってきた波止場が昔の敦賀駅だ。近年は『ちはやふる』や『チアダン』のような青春映画のロケ地として注目を集める福井県だが、実は鉢伏山を境に北の嶺北地方と南の嶺南地方では文化が全く異なりヒットする映画も違うという。嶺南地方に位置する関西寄りの風土が染み付いている敦賀では、福井弁で話す嶺北地方を舞台とする『ちはやふる』をご当地映画と言い切れない部分もあるそうだ。

敦賀駅から人通りもまばらな平日の商店街を港に向かって歩く。アーケード沿いに松本零士の漫画に出て来るキャラクターのブロンズ像が設置されている。その数28体。これは開港100周年記念の一環として制作されたそうだ。5分ほど歩くと、近畿・北陸地方を中心にスーパーマーケットを展開している平和堂が運営する「アルプラザ敦賀」がある。その6階にある「敦賀アレックスシネマ」は、地元の人たちに親しまれている映画館だ。元々、映画館が入る事を前提に建設計画が進められていたが、この地域では採算が見込めないという理由から、どこの興行会社からも出店を断られてしまう。それならば…と、映画館や飲食店の誘致を行ってきたノウハウを活かして(有)アレックスを設立。大手チェーンに属さない完全地元密着型の映画館として2000年12月8日にオープンした。

こちらではオープン当初から働いているスタッフが多いため、子供の頃から来ているお客さんと近所の知り合いみたいな感覚で話しをされる光景がよく見られる。ロビーを地域のコミュニティ広場みたいな感覚で利用されている方も多く、ぶらりと訪れては、観たい映画が無くてもスタッフとおしゃべりしたり、中には、お菓子やパンをスタッフに差し入れする常連さんもいるそうだ。その一方で毎週のように来場される熱烈な常連さんもいて、子供向けのアニメから大人向けのドラマまでジャンルを問わず全て観賞されるという。敦賀の人たちは自分の好きな映画のイベントには積極的にノってくれる方が多く、『名探偵コナン』の公開時に自由帳を設置した時は、あっという間にコメントで満杯(中にはスタッフに「上映してくれてありがとう」という感謝の言葉も)になったそうだ。今までは買い物帰りに立ち寄られるファミリー層がメインだったが、最近では工場で働く外国の労働者や隣のゲームセンターで楽しんでから来場される年輩者も増えており、これも時代の流れだろうか。

1階エントランスに掲示されている上映案内ポップのクオリティーの高さに驚く。チラシを細かく切り抜いて立体的にコラージュしているのだ(おすすめポイントの吹き出しも秀逸)。これはスタッフが空き時間を利用して作っているというから感服せずにはいられない。ロビーの一角に設けられた撮影コーナーでも、スタッフが制作した作品にちなんだ被り物で記念撮影が出来るので、毎回子供たちが行列を作るそうだ。また、応援上映ではスタッフが司会を買って出て観客を盛り上げたり、時にはコスプレでパフォーマンスを披露。こうした趣向を凝らしたポップやイベントを自発的に送り続けているのは「お客様が作品と共に記憶に残る映画館でありたい」という思いから。何よりスタッフがお客さんと一緒に楽しんでいるのがイイ。だからこそお客さんもノリノリで参加してくれるのだ。

取材を終えて帰りがけに「美味しい鯖を食べられるおススメのお店」を聞いてみた。鯖好きの僕としては山陰と言えば何はともあれ鯖だ。食通でありながら子供の頃は鯖が大嫌いだったという池波正太郎も山陰で食べた鯖の美味しさは忘れられないと、随筆「鯖」で書かれているほどだ。地元に住んでいるという女性のスタッフさん(撮影中にキャラメルポップコーンを差し入れて下さった)から駅前通りにある地魚料理のお店を紹介してもらった。いつもは混んでいる店内もお昼を過ぎてひと息ついたところらしく、すぐカウンターに案内してもらう。刺身盛合わせにも心が惹かれたが、そこは初志貫徹して、さば味噌御膳を注文する。箸を入れるとホロホロに崩れる身に濃い口の味噌が絡んで白飯が進む。私の人生で食べたさば味噌の中で一番美味しかった。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2019年4月

「敦賀アレックスシネマ」のホームページはこちら
https://alex-cinemas.com/turuga/

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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