岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

いつも住みたい街に選ばれる吉祥寺駅前にある街のシンボル

2022年07月13日

吉祥寺オデヲン(東京都)

【住所】東京都武蔵野市吉祥寺南町2-3-16 吉祥寺東亜会館
【電話】0422-48-6521
【座席】3スクリーン 719席

天気の良い初夏の5月は映画の梯子をするにも銀座や渋谷のような都心ではなく、郊外の吉祥寺まで足を延ばしている。いつもなら、5本くらいは平気で観てしまうのだが、吉祥寺で映画を観る時は少し余裕を持って、映画を2本くらいに抑えて(それでも多いと妻に言われるが)映画の合間に喫茶店に入って本を読んだり、過ごしやすい天気の時は井の頭公園でボーっとする。吉祥寺は、映画館が繁華街から程良い距離に点在しているので、そういった街歩きも楽しめてイイ。学生時代には隣駅の三鷹まで移動して、名画座「三鷹オスカー」で、600円の二本立てを観たりしていた。

吉祥寺のランドマーク井の頭公園は、神田上水の水源地である井の頭池があり、幹線道路の吉祥寺通りと井の頭通りの喧騒から隔離され、幅広い世代が訪れる憩いの場となっている。休日ともなると多くの家族連れやカップルで賑わいを見せており、池にはたくさんのボートが浮かぶ。敷地の大半を池が占めているからだろうか、夏場でも涼しい風が吹いてくれるので過ごしやすい。井の頭公園を舞台とした映画では、犬童一心監督の『グーグーだって猫である』を思い出す。小泉今日子が演じる公園の近くに住む漫画家と新しく迎えた猫の何気ない日常が綴られている。タイトル程には猫は脇に置かれており、あくまでも物語の主人公は吉祥寺の街だったり井の頭公園という空間。生活圏と繁華街が隣り合った街のあちこちで繰り広げられる滑った転んだが淡々と描かれる。

新宿まで中央線快速で15分足らずという好立地にある吉祥寺は、元々、文京区の駒込にあるお寺の吉祥寺に由来している。江戸の大火で住むところを失った門前に住んでいた住民に与えられた代替地で、地名もそのお寺から頂いた。戦後間もない頃から交通の要衝として駅前の開発が進み、今では常に住みたい街にランキングされる人気エリアとなった。駅を挟んで南北に街が形成されてきた吉祥寺には、昭和30年代に中規模クラスの映画館が9館あって、商店街が栄えていた北口に集中していた。平成になると直営館の殆どが姿を消してしまったが、不思議な事に館の数は昭和30年代から変わっていない。それどころか「吉祥寺バウスシアター」という映画とライブが楽しめるミニシアターまで登場(現在は閉館)して、街全体がサブカルチャーの聖地ともなった。

そんな吉祥寺の多種多様の映画館事情において、設立時から現在まで同じ場所で興行を続けている映画館がある。駅の東口から通りに出ると、大きく館名を掲げる外観が目印の「吉祥寺オデヲン」だ。昭和29年9月に設立した二本立て興行を行う木造の洋画三番館が全身となる。昭和53年10月には「吉祥寺松竹オデヲン」「吉祥寺スカラ座」「吉祥寺セントラル」「吉祥寺アカデミー」の4つの映画館と、ゲームセンターが入った複合型娯楽施設の吉祥寺東亜会館としてリニューアルオープン。現在まで3スクリーン体制となり、東宝系封切り館として近隣の人たちに親しまれてきた。駅近という利便性から、買い物途中にフラリと入られるお客様も多く、車を使われないご年輩の方やご夫婦が連れ立って来場される姿をよく見かける。今では珍しいスクリーンが湾曲になっているワンスロープの場内は天井が高く、映画を視界イッパイに楽しみたいという長年ごひいきの常連さんたちに好まれているようだ。

ロビーには過剰な装飾やBGMは無く、自動販売機と待合スペースだけというシンプルさが良い。そう、映画が始まるまでは出来るだけ余計な情報は入れず、心を無にして過ごしたいのだ。コチラは基本的に場内への飲食の持ち込みは常識の範疇(匂いのキツイものや音の出るもの以外)ならば自由なので、早朝の映画を観ながら牛乳とあんぱん派の私にはありがたい存在だ。席について横に目をやると、時々私と同様のあんぱん派がいる。その度に「ですよね」と心の中で呟くのだ。割引サービスもバースデー割引や500円につき1ポイント、15ポイントで1回無料になるスタンプカードなどが充実しており、たくさん映画を観たいファンはそういったサービスを上手く活用しながら、朝からハシゴされたりして、あっという間にスタンプを貯める強者も多い。

住宅地が近いため、休みのシーズンにはお母さんに連れられた子供たちが多くなり人気のアニメ作品には平日の朝からロビーは賑わいを見せる。子供向けのプログラムに力を入れており、「将来の映画ファンを育てるためにも映画館で映画を観る機会を子供たちにたくさん提供したい」と当時の支配人さんが語っていたのを思い出す。若い人たちは自宅で映画を観る手軽さに慣れてしまっているのが最近の実情だが、小さい頃に両親に連れてきてもらった映画館に、大人になっても変わらず友だち同士やデートでやって来る。あるいは、今日はちょっと駅前の映画館に行ってみようか…という、気軽なノリで映画を楽しめるのが、街なか映画館の良いところだ。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2014年5月

「吉祥寺オデヲン」のホームページはこちら
http://cinemaodeon.jp/

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

行ってみたい

91%
  • 行きたい! (10)
  • 検討する (1)

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

ページトップへ戻る