岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

キネマの天地にある映画館は街の人々を笑顔にする

2019年09月18日

テアトル蒲田/蒲田宝塚

【住所】東京都大田区西蒲田7-61-1
【電話】03-3732-7771
【座席】テアトル蒲田:244席 蒲田宝塚:279席

 「蒲田は粋がない下町」。廣木隆一監督が手掛けた『やわらかい生活』で、主人公・優子を演じた寺島しのぶがパソコンにそう打ち込む。そして、東急プラザの屋上遊園地にある観覧車から、蒲田の街をデジカメに収める。昭和43年から操業するプラザランドの名物だった観覧車も、今はもう無い。東京と神奈川との境にある京浜東北線と京浜急行が走る蒲田は、映画ファンならば誰でもその名を知っている「松竹蒲田撮影所」があった正に『キネマの天地』だった。

 昭和30年代前半には駅周辺にも20館以上の映画館が建ち並んでいた映画の街も、映画産業の斜陽化に伴い映画館が減少し、今では昭和39年にオープンした東映邦画専門館の「テアトル蒲田」と東宝邦画専門館の「蒲田宝塚」の2館を残すのみとなってしまった。駅前から真っ直ぐ伸びるアーケード商店街のサンロード蒲田の中にある1階が、スーパーマーケットの東京蒲田文化会館にある百貨店が運営する街の映画館だ。

 通りを歩くと、一際目立つ上映作品のポスターが掲示されているショーケース。立ち止まって見入る子供の手を、お母さんが引っ張る光景が見られるのが何とも微笑ましい。エレベーターで4階に上がると、すぐそこはチケット窓口を挟んで二つの映画館のエントランスがある。入口上に設置されているアクリルの電飾が懐かしい姿で残っており、思わず童心に戻ってしまう。最近では見かけなくなった2階席があるのも特徴のひとつだ。ワンスロープ式の場内は、ビルの中にあるとは思えないほど天井が高く、解放的な作りになっている。また、シートの座り心地も抜群で、大きなスクリーンを前にお気に入りの場所を陣取って釘付けとなる子供たちの姿は昔も今も変わらない。

 子供たちの休みシーズンである春・夏・冬になると子供たちで満席になり、普段は閉鎖されている2階席もこの日だけは開放するほどの盛況ぶりを見せている。こちらは、アニメと特撮では圧倒的人気を博しており、配給会社の担当者からも「是非、上映してもらいたい劇場」とお墨付きをもらっている。ロビーには過去最高記録を残した『ゴジラ対モスラ』の記念の盾が飾られていたり、『映画ドラえもん のび太の日本誕生』では動員数の新記録を樹立するなど、ファミリー層の集客に関しては都心の映画館に引けを取らない。これが商店街の映画館の強さだろうか。

 一方、平日ともなると、圧倒的に年輩の常連さんが多く、『明日の記憶』や『64』などの人間ドラマは定評がある。良い映画を観た後は、活気のある商店街をぶらぶら歩くのが良い気分だ。まるで、時が止まったかのような昭和歌謡の雰囲気漂う街に、しっかりと映画館が溶け込んでいるのが分かる。ガード下に美味しい料理屋や安い一杯飲み屋があったりして、そのまま帰るのは勿体ない店がたくさんある。街で映画を観るという事は、街を含めて楽しむ事なのだ。

 そんな蒲田の住民だけではなく、多くの映画ファンから本物の街の映画館と親しまれてきた「蒲田宝塚」が令和元年8月29日に、「テアトル蒲田」が同年9月5日にひっそりと閉館した。ラストショーは「蒲田宝塚」が『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION」、「テアトル蒲田」が『アルキメデスの大戦』という普段と変わらない作品で、さよなら興行は無く半世紀に亘る歴史に幕を下ろした。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2007年4月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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