岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

街の人たちの勘違いから復活した秋田の映画館

2019年01月30日

御成座(秋田県)

【住所】秋田県大館市御成町1-11-22
【電話】0186-59-4974
【座席】200席

 弘前からJR奥羽本線に乗って、秋田県北部にある大館駅に降り立ったのは11月も終わりに近い早朝。前日に初雪が降ったばかりというだけに、吐く息も真っ白だ。かつて、比内郡と呼ばれていた大館は、比内鶏と曲げわっぱ、そして忠犬ハチ公の故郷としても知られている。

 あまりに早く着き過ぎたため、駅周辺をぶらぶらするが、あまりに寒くて駅の待合室で缶コーヒーを飲んでいると、地元の高校生たちが集まってきた。どうやら路線バスが着いたらしく、元気な挨拶が微笑ましい。

 駅から3分ほどのところにある「御成座」は、昭和27年にオープンした洋画専門館だった。一度、火災で焼失したため、現在の建物は翌年に再建した二代目。当時と変わらぬ佇まいから、日本中の駅にはこうした映画館が当たり前のようにあった昔を思い起こさせる。最盛期には街に5館あった映画館も昭和40年代から減少を続け、最後まで残っていた「御成座」も平成17年に閉館。以来、しばらく映画館は手つかずのまま放置されていた。

 平成26年、実に9年ぶりに「御成座」は復活した。電気工事会社を経営する切替義典さんが、自宅兼事務所として借りたのが、そもそもの始まり。無類の映画好きだった切替さんは、自分の劇場で映画が観ることができる…ただそれだけのつもりだった。

 ある日、表で修繕をしていると、通りすがりの人たちから「映画館を再開するのか?」と毎日のように尋ねられ、とうとう商店街の人たちまでやって来て「再開するなら応援するよ」とまで言い出す始末。遂に住民の期待に応えるように、「御成座」は復活に向けて着々と動き始めた。

 国内外の名作がフィルムで観られる…と、県外からも大勢の映画ファンが押し掛けた。その後、『ひまわり』や『幸福の黄色いハンカチ』といった昭和の名作がスクリーンを彩り、入口の上には絵看板も復活した。当日券を購入して時間があれば、カーボン式の映写機が展示されているロビーで、自由に閲覧できる映画書籍を読んで待つのも楽しい。棚にはオーナーが中学生時代から録りだめていたテレビ放映された映画のVHSのビデオテープが並んでいるので飽きることがない。

 平日は市民によるのど自慢大会などのイベントが開催され、柴咲コウがカバー・アルバム発売記念企画としてコンサートをここで開いたこともあった。上手くいかなければやめればいい…そんな感じで始めた映画館だったが、周囲の人たちと、映画館に住み込む家族とスタッフの応援で、何とか続けてこられたという。利益を追求するのではなく、楽しみながらやり続ける…やはり好きなことは強いなぁとつくづく思う。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2016年11月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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