岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

タイトルに皮肉の込められた社会派笑劇

2018年06月23日

ハッピーエンド

©2017 LES FILMS DU LOSANGE - X FILME CREATIVE POOL Entertainment GmbH – WEGA FILM – ARTE FRANCE CINEMA - FRANCE 3 CINEMA - WESTDEUTSCHER RUNDFUNK - BAYERISCHER RUNDFUNK – ARTE - ORF Tous droits réservés

【出演】イザベル・ユペール、ジャン=ルイ・トランティニャン、マチュー・カソヴィッツ、ドビー・ジョーンズ、ファンティーヌ・アルドゥアン
【脚本・監督】ミヒャエル・ハネケ

緊張感と考える余地を与えてくれるハネケ監督

 人間の奥底に潜む悪意や欲望などの根源的な感覚を、説明を極力排した演出で冷徹に描写し、感情移入を拒否したスタイルで観客を選んできたミヒャエル・ハネケ監督の新作は、「ハッピーエンド」という皮肉のこもったタイトルを含め、いささかの衰えもみられない社会派笑劇であった。

 難民問題の象徴的な街であるフランス・カレーに住む裕福なロラン一家のトラブルは、我々が直面しているディスコミュニケーションの問題に行きつく。同じ屋根の下に住む家族であるが、相談もしないし興味も持たない。傍の家族よりも顔の見えない相手に、チャットやスマホアプリを使って本音を打ち明ける。ダイレクトなコンタクトを遠ざける風潮。そこからは、別に他人に興味があるわけでなく、基本的には無関心という事が次第に分かってくる。

 しかし、ハネケは新しいコミュニケーションツールを一方的に批判しているわけではない。13歳のエヴは、スマホ無しでは生きていけない。実母に対する犯罪をスマホに撮って匿名でネットにアップするのだが、それは注目を集めるためであり、どこかで「バレてもいいや」と思っている節がある。自閉的な世の中にあって、スマホが自分の存在価値を確認できるツールとなっているのだ。

 登場人物が多彩な中でも、そろそろ人生の幕を下ろしたい85歳のジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)と孤独に歪んだ孫娘の関係性は、死という概念を通してではあるが、逆説的にココロが通っているようにみえる。

 ハネケ監督は、粒子の荒い縦長のスマホ画面や、工事現場の崩落の瞬間を捉えたロング・ショットの定点モニターなどに一切の編集を加えずそのまま使う事で、我々に緊張感を与えるとともに、考える余地も与えてくれる。そういったシーンには感情を揺さぶるような音楽もかからず、環境音と撮影者の声のみというのが、いかにもハネケらしい。考える事が楽しい人向けの映画である。


『ハッピーエンド』は岐阜CINEXほか、全国で公開中。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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