岐阜新聞 映画部

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人間の我慢の限界を描き、本質に迫った映画

2024年09月06日

愛に乱暴

©2013 吉田修一/新潮社 ©2024 「愛に乱暴」製作委員会

【出演】江口のりこ、小泉孝太郎、馬場ふみか、水間ロン、青木柚、斉藤陽一郎、梅沢昌代、西本竜樹、堀井新太、岩瀬亮/風吹ジュン
【監督・脚本】森ガキ侑大

映画内は、不穏な空気感が充満している

切れ長の一重の瞳に、白い肌のすらっとした高身長、思ったことをズバッという自立した女性を演じ、いまや主演作品が相次ぐ江口のりこさん。昔から脇役でも強烈な存在感があったが、私にとっては何と言っても『愛がなんだ』(2019/キネ旬8位)のすみれだ。主役のマモル(成田凌)の片想いの相手役で、惚れ惚れするお姉さんだった。

『愛に乱暴』は江口さんが主役だ。結婚8年目になる41歳の専業主婦・初瀬桃子役で、夫・真守(小泉孝太郎)と2人で、夫の実家の離れで暮らしている。子どもはいない。

カメラは、終始、桃子の行動を追っかけていく。手持ちであるがスタビライザーで安定しており、手ブレなどの違和感はないが、不穏な空気感は充満している。

桃子の若干のストレスがとてもリアルだ。一見穏やかなようだが、自分の思うようにはいかない。夫との生活は、献立に気を使っていても、欲しかった食器を買っても、リフォームの相談をしても、生返事だ。そもそも家にいる時間が少なく、食事の準備をしていても、食べてきたと言う。

母屋に住む義母・照子(風吹ジュン)にも、毎朝ゴミ出しの声掛けをしているが、お互い気を使っている関係性が何故かよそよそしい。

ゴミ出しの集積場所は、ルールを守らない人がいていつも散らかっているが、彼女は黙々と散乱した物を片付けモップで掃除をしている。

彼女の唯一の生きがいだと思われる「手作り石鹸教室」の存続も、調子のいいことをいう上司は全く役に立たない。

いろんな感情が徐々に集積してきて、桃子の行動は段々突飛で直接的になってくる。常に緊迫感のある画面がとてもサスペンスフルで、観ているこちらも緊張感が持続する。

人間の我慢の限界を描いた映画であり、どうやったら感情が爆発し心がおかしくなってしまうのか、怖いぐらいに本質に迫った映画である。

江口のりこさんが素晴らしく、代表作になるのは間違いない。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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