ニコラスさんから、善意のバトンを受け継いでいこう

ニコラス・ウィントン（1909～2015）は、イギリスに住んでいた人道活動家で、106歳で亡くなっている。彼は第二次大戦前夜の1939年、チェコスロヴァキアで、ユダヤ人の子どもたちを安全な国に疎開させる＜キンダートランスポート＞と呼ばれる活動に参加し、公的支援を受けずに669人の子どもたちの命を救った人物だ。

このことは、「救出することが出来なかった子どもたちに申し訳ないと思っていた」との自責の念から家族にさえ一切話していなかったが、約50年後に発見された一冊のスクラップブックから彼の偉業が明らかになり、映画で再現されていたように、1988年、BBCのリアリティ番組「ザッツ・ライフ！」で、多くの生存者と感動の再会が出来たのである。

この事実は、チェコスロヴァキアで『ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち』（2011）というドキュメンタリー映画が制作され、日本でも2016年に公開されて知られることとなった。2008年にはチェコ政府からノーベル平和賞候補に推薦されている。

本作はニコラスが、プラハでの難民たちの厳しい状況を知って心を動かされ、命の危険も顧みず子どもたちを救った青年時代（ジョニー・フリン演）と、テレビでのサプライズで一躍有名となり「イギリスのシンドラー」と呼ばれる約50年後の老年時代（アンソニー・ホプキンス演）とが、丁寧な演出と見事な演技で観客に示される。

「ザッツ・ライフ！」の番組で、隣りに座っている女性が生存者のヴェラ・ギッシングさんで、司会者が「また他にニコラスさんに命を救われた方がいらっしゃいましたら、ご起立願えますか？」と促したら、観客席の全員が一斉に起立したシーンには感動しかない。本物のシーンは、YouTubeにアップされており凄い再生数だ。

私たちは差別や迫害、難民問題から決して目をそらしてはならない。善意のバトンを受け継いでいこう。