岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品関心領域 B! アウシュヴィッツ強制収容所と壁を隔てた隣人たちの話 2024年08月01日 関心領域 ©Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved. 【出演】クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー 【監督・脚本】ジョナサン・グレイザー ポーランド人少女が埋めた林檎は飢えた人に届いたか アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所はナチス占領下のポーランド南部にあった。 原作はイギリス人作家マーティン・エイミスの同名小説で、アウシュヴィッツ強制収容所の初代所長だったルドルフ・フランツ・フェルディナント・ヘスをモデルとした、パウルとハンナのドール夫妻と、架空の人物を中心に描かれた小説である。 監督のジョナサン・グレイザーは、脚本化に際し、架空の人物という設定を実在の人物に戻す選択をし、大まかなモデルであった、ルドルフ・ヘスと妻ヘートヴィヒの周辺を2年に渡り徹底的に調査したという。 収容所がその地に建設されたのには諸説あるが、地勢的にはヨーロッパの中心に位置していたとか、広大な用地や輸送手段が確保できたからと推測される。しかし、ナチスの最大の目的は、アーリア人の純血化にあったため、少なくともドイツ国土から遠隔の地、ユダヤ人を入れない通させない地、他国ポーランドの南端が選ばれた。 映画の進行には説明的なものがない。映し出されるもの、または、そこで交わされる会話が、あまりにも淡々とした日常に過ぎないため、下手をすれば観客は置いてけ堀の疎外感に堕とされる。 広大な庭を有する屋敷。何人もの使用人が働く、まさに特権階級の家族がそこに住まう。 違和感は、周辺が高い壁によって固められていること、その壁の向こう側から異音が聴こえること。 その壁は横移動で延長感、縦移動で圧迫感を強調する。音は怒鳴り声や悲鳴が唐突に途切れ途切れと聴こえ、銃声が…間違った表現に思えるかもしれないが、"静かに" 響く。 女性は押収物の品定に色めき立ち。軍服の男たちには、上司(=上官)の命令を卒なくこなす、姑息な役人根性が滲む。 壁の向こう側で起きていることを、こちら側の人が知っているように、観客にもそれが分かる。 眠れない夜から逃げだす正常と、ここは私の城と転勤を拒否する異常。目を背けること耳を塞ぐことを問われる怖しい映画だ。 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 100% 観たい! (6)検討する (0) 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 2024年09月26日 / どら平太 日本映画黄金時代を彷彿とさせる盛りだくさんの時代劇 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 助けを求める人はもはや敵ではなく、ただの人間だ 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 海の男たちが下す決断を描くヒューマンドラマ more 2022年12月28日 / シネマエポック(鳥取県) 白壁土蔵の城下町にある街なか映画館。 2020年08月19日 / 大心劇場(高知県) 高知の山奥にポツンと佇む懐かしの映画館 2018年05月16日 / 鶴岡まちなかキネマ(山形県) 晩夏の庄内地方で名作のロケ地と映画館を満喫 more
ポーランド人少女が埋めた林檎は飢えた人に届いたか
アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所はナチス占領下のポーランド南部にあった。
原作はイギリス人作家マーティン・エイミスの同名小説で、アウシュヴィッツ強制収容所の初代所長だったルドルフ・フランツ・フェルディナント・ヘスをモデルとした、パウルとハンナのドール夫妻と、架空の人物を中心に描かれた小説である。
監督のジョナサン・グレイザーは、脚本化に際し、架空の人物という設定を実在の人物に戻す選択をし、大まかなモデルであった、ルドルフ・ヘスと妻ヘートヴィヒの周辺を2年に渡り徹底的に調査したという。
収容所がその地に建設されたのには諸説あるが、地勢的にはヨーロッパの中心に位置していたとか、広大な用地や輸送手段が確保できたからと推測される。しかし、ナチスの最大の目的は、アーリア人の純血化にあったため、少なくともドイツ国土から遠隔の地、ユダヤ人を入れない通させない地、他国ポーランドの南端が選ばれた。
映画の進行には説明的なものがない。映し出されるもの、または、そこで交わされる会話が、あまりにも淡々とした日常に過ぎないため、下手をすれば観客は置いてけ堀の疎外感に堕とされる。
広大な庭を有する屋敷。何人もの使用人が働く、まさに特権階級の家族がそこに住まう。
違和感は、周辺が高い壁によって固められていること、その壁の向こう側から異音が聴こえること。
その壁は横移動で延長感、縦移動で圧迫感を強調する。音は怒鳴り声や悲鳴が唐突に途切れ途切れと聴こえ、銃声が…間違った表現に思えるかもしれないが、"静かに" 響く。
女性は押収物の品定に色めき立ち。軍服の男たちには、上司(=上官)の命令を卒なくこなす、姑息な役人根性が滲む。
壁の向こう側で起きていることを、こちら側の人が知っているように、観客にもそれが分かる。
眠れない夜から逃げだす正常と、ここは私の城と転勤を拒否する異常。目を背けること耳を塞ぐことを問われる怖しい映画だ。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。