岐阜新聞 映画部

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楽園の隣りの地獄。背筋が凍り付くおぞましい映画

2024年08月01日

関心領域

©Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

【出演】クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー
【監督・脚本】ジョナサン・グレイザー

自分の幸福だけを追及していてはダメなのだ

本作は、アウシュビッツ収容所長ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)とその家族の穏やかな日常を、郊外に住む典型的な中流家庭の目線で描いた、背筋が凍り付くおぞましい映画である。

映画の冒頭から数分間、スクリーンは真っ暗なままでボーっという不気味な重低音が鳴っている。この段階では何の音か不明だが、画面には何も映ってないので、音に注意を向けるほかない。

それが終わるとスクリーンには、青空の下、白くて瀟洒な邸宅が映し出され、美しい庭とプールで子どもたちが楽し気に遊んでいる幸せそうな家族の様子が描かれる。現代の中流家庭と同じような日常だが、違うのは壁ひとつ隔てた向こう側は、ユダヤ人等を虐殺している収容所である事だ。

壁のこちら側、ヘスの家庭は平和そのものだ。妻のヘートヴィヒ(ザンドラ・ヒュラー)は、父親の誕生日を祝ったり、家族全員で食卓を囲んだり、メイドや庭師がいるこの生活を満喫している。夫が持ち帰ってくる毛皮や宝石も、出所はわかっていつつも、選び放題だ。

そんな楽園のような光景が映し出されるが、壁の向こう側からは煙が見えたり、時おり叱責や悲鳴、銃声が聞こえてくる。私たちはこれが何を意味するかを知っているだけに、ヘスの一家のありふれた日常が、関心を向けないことで保たれていることがわかってくるのだ。

しかしながらこの異様な光景の中からも、一家の何気ない一挙一動によりおぞましさが次第に観客に伝わってくる。子どもたちの態度や、妻の執着心、就寝前のルドルフの奇妙な習慣、川に流れて売る大量の灰や固形物。

収容所内に密かにリンゴを届けるレジスタンスの女の子の存在は、無関心とは反対で、ヘス一家と対をなしている。

人間の「関心領域」の外にあるものは、たとえ目で見えていても、それは無いのと同じだと、ジョナサン・クレイザー監督は訴えている。自分の幸福だけを追及していてはダメなのだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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