岐阜新聞 映画部

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ハロルド・フライの祈願成就と贖罪の「巡礼の旅」

2024年07月12日

ハロルド・フライのまさかの旅立ち

© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022

【出演】ジム・ブロードベント、ペネロープ・ウィルトン
【監督】へティ・マクドナルド

彼の人を信じる心は、旅の支えになっていく

長年ビール会社で地味に働き、今は退職している本作の主人公ハロルド・フライ(ジム・ブロードベント)は、イングランド南西部の港町キングズブリッジで、妻のモーリーン(ペネローペ・ウィルトン)と慎ましやかに生活している。

そこにかつて同僚だったクイーニー(リンダ・バセット)から「今はホスピスにいて命はまもなく尽きる」との手紙が届く。「直接会って感謝の言葉を述べたい」と意を決したハロルドは、愛犬と一緒に徒歩で出発する。目的地は800km先、イングランド最北端ベリック・アポン・ツイードにあるホスピスだ。

本作は、信じる心で旅を完遂しようとする、ハロルド・フライの祈願成就と贖罪の「巡礼の旅」である。

800kmというと、岐阜市からだとおおよそ福岡市までの距離だ。老人の足取りでとぼとぼと進むのだから大変なことである。靴はボロボロになり脚は腫れあがってくる。過酷な旅である。

しかしこれが艱難辛苦の苦行に見えないのは、彼の疲れた身体をいたわるように包み込むイギリスの豊かな田園風景に加え、道行く先々で出会う人々の優しさと、彼の信じる心だ。

そもそも徒歩で旅立つ決心をしたのは、売店の女性店員からの「信じる気持ちがあれば」のひとことを信じてのことだし、恋人にスニーカーを買ってやったらいいか相談を持ちかける紳士や故国では女医だったのにいまは清掃員の女性、酒とドラッグに溺れてハロルドと行動を共にする青年などに適切な助言をする。それらは彼の人を信じる心であるし、旅の支えにもなっていく。もちろん黙って出発してしまった妻への定期連絡も怠らない。

そしてSNSで話題になり、たちまち時の人になっていく過程はいかにも現代風だが、別に悪い事ではない。

旅の途中で徐々に明らかになるハロルドの過去からは、彼の贖罪の旅でもあることも物語っている。

この巡礼の旅が成就するかどうかは、観てのお楽しみ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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