岐阜新聞 映画部

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社会からはじき出された少女に寄り添う社会派ドラマ

2024年07月12日

あんのこと

©2023『あんのこと』製作委員会

【出演】河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎、河井青葉、広岡由里子、早見あかり
【監督・脚本】入江悠

決してあんのことは忘れないよ

厚生労働省の発表による日本の相対的貧困率は15.4%(2021年調)、つまり人口の6人に1人、約2,000万人が貧困ライン以下の生活を余儀なくされているのだ。これは先進国で最悪の数値である。

さらに子どもに限って言えば、7人に1人の子どもが貧困で、中でもひとり親家庭の子どもは、2人1人が貧困状態にある。1970年代は「一億総中流」と言われたが、何故こんなことになってしまったのだろうか?

『あんのこと』は、不寛容と自己責任と個人主義がはびこる令和の現代、機能不全に陥っている家庭で暮らす少女・香川杏(河合優実)を中心に描いた、ドキュメンタリータッチの社会派ドラマだ。

杏は、幼いころから母親の暴力と虐待にさらされ、10代半ばからは売春を強要されている重大な問題家庭の子どもである。絶望的な心の中で、救いはドラッグによる一時的快感だけであった。

そこに救いの手を差し伸べたのが、型破りの警察官・多々羅(佐藤二朗)である。彼は薬物患者のためにボランティアで更生施設を作って運営している。そこへ何とか立ち直ろうともがき苦しんでいる杏がやってくるのだ。

そしてその更生施設を取材するのが週刊誌記者の桐野(稲垣吾郎)で、彼にはある目的があった。

一度社会のシステムからはじかれてしまった人間を救うのは誰か?挽回やリベンジが出来にくい世の中で、彼らに寄り添えるのは心あるボランティアの人間だ。多々羅などまさにそうであり、はじき出された人たちの心のよりどころである。

しかし協力的であった桐野が悩んだ末、多々羅の裏の顔を暴き出す。もちろん多々羅はダメなのだが、それによって彼を頼ってきた更生施設の利用者が行き場を失ってしまう。善悪だけでは片付けられない厳しい現実だ。

入江悠監督は声高に叫んでいるわけではない。1人も社会から取り残されないようにと願っているだけだ。決してあんのことは忘れないよ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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