岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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横暴な行政に対し、住民は徹底抗戦で闘っていく

2024年07月01日

バティモン5 望まれざる者

© SRAB FILMS - LYLY FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - PANACHE PRODUCTIONS - LA COMPAGNIE CINÉMATOGRAPHIQUE – 2023

【出演】アンタ・ディアウ、アレクシス・マネンティ、アリストート・ルインドゥラ、スティーヴ・ティアンチュー、オレリア・プティ、ジャンヌ・バリバール
【監督・脚本】ラジ・リ

パリのもうひとつの顔、これも真実のパリ

ラジ・リ監督の前作『レ・ミゼラブル』(2019)は、パリ郊外の街・モンフェルメイユの低所得者用団地を舞台に、そこに住む少年が起こした些細な事件がやがて大騒動へと発展していくという筋書の映画で、フランス社会が抱える暗部をリアルに描いた傑作でありCINEXでも上映された。

それに続く本作は、前作と同じ「バンリュー」と呼ばれる移民や低所得者が多く住み犯罪多発地区となっているパリ郊外の団地が舞台であるが、今回はモンヴィリエという架空の街となっている。

2024年のパリ五輪を控え、臨時市長に就任したピエール(アレクシス・マネンティ)は、治安の悪いこの一画を「再開発」を口実に一掃しようとしている。中でも"バティモン5"と呼ばれる団地は、「老朽化で危ないのですぐに出て行け」と強引な立ち退き要求に迫られている。このあまりにも横暴な行政執行に対し、住民は徹底抗戦を決意して闘っていくという映画だ。

こういった低所得者層が住む低家賃の集合住宅を取り壊し、再開発という名目で一掃していくやり方は、日本を含め世界中で行われている。その結果ジェントリフィケーション(開発などによって、ある地域により豊かな層が移り住むことで、住民の居住環境が変化する現象)が起こり、貧困層は住めなくなるのだ。

"バティモン5"の住人で、移民たちのケアスタッフとして働くアビー(アンタ・ディアウ)。母の棺桶を運ぶのに、階段から苦労して降ろすのは、エレベーターが常に故障しているからで環境は劣悪だ。アビーは、前市長と違いクリーンで誠実そうなピエール市長に最初は期待していたが裏切られ、市政の腐敗ぶりに失望し、次の市長選に立候補することを決意する。

映画は前作同様、ドキュメンタリーと見紛うばかりの徹底したリアリズムで描かれ、抗争が激化していく様子を畳みかけるように物語っていく。パリのもうひとつの顔、これも真実のパリだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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