岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

不幸な家族を描いた幸福感に包まれる傑作

2018年05月14日

blank13

©2017「blank13」製作委員会

【出演】高橋一生、松岡茉優、斎藤工、神野三鈴、村上淳、榊英雄、金子ノブアキ、村中玲子、佐藤二朗、リリー・フランキー ほか
【監督】齊藤工

齊藤工監督は、どのような描写が人の心に響くかを知っている

 シネフィルとしても知られる俳優・斎藤工が ”齊藤工” 名義で監督した『blank13』は、初の長編劇映画とは思えない心に残る素敵な作品だった。

 映画をこよなく愛する齊藤工監督は、どのような描写が人の心に響くかを知っている。それは、登場人物が感情を観客にあからさまにぶつけることでは決して得られない事も。登場人物一人ひとりの表情の裏に隠された心のひだを、その視線や仕草、互いの距離感で見事に表現していて、演劇とは違う映画ならではの微妙なニュアンスに富んだ作品に成り得ている。

 借金の取り立てに身を潜めて暮らす日々から、やがて父親の失踪により、遮二無二働く母親とそれを助ける息子ふたりの痛ましい姿までを描いた、前半の生活苦のリアルな描写。そして後半、癌でこの世を去った父親の葬儀で、数少ない参列者によって明かされる、13年間の空白に於ける父の姿。息子たちとともに、観客は父親の知られざる人物像を垣間見る。

 映画的記憶が生かされた脚本の構成も見事だが、ダメな父親を絶妙に演じるリリー・フランキーをはじめとするキャスティングが素晴らしい。断片的に挿入される回想シーンも効果的。

 不幸な家族の物語であるにも関わらず、観終わって「家族ってかけがえのない大切なものだ」と感じずにはいられない、幸福感に包まれる傑作である。


『blank13』は岐阜CINEXほか、全国で公開中。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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