岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

映画館の滞留時間を長く…映画の余韻を楽しむ

2019年04月10日

シネマ5(大分県)

【住所】大分県大分市府内町2-4-8
【電話】097-536-4512
【座席】74席

 8年前に訪れた九州の東部に位置する大分市は大きな街だった。人口約48万人…この年100年を迎えるターミナル駅は朝早くから通勤通学の人たちでごった返していたが、翌年には高架化されて更に便利になった。

 近隣には大林宣彦監督が製作した名作『なごり雪』の舞台となった臼杵市や、古くから続く映画祭の街として知られる温泉地・湯布院もある。駅から少し歩いたところにある繁華街の府内町は、昭和30年代には20館近くの映画館が軒を連ねる映画街として栄えていた。その中心に「シネマ5」と「シネマ5 bis」という二つのミニシアターがある。

 次々と街から映画館が姿を消していた昭和60年代…赤字経営が続いていた二番館の「シネマ5」が閉館すると決まった時「閉めるのならばやらせてもらえないか?」と映画館の継続に名乗りを上げた人物がいた。それが、現在の支配人の田井肇さんだ。当時のオーナーからは「損するからやめた方が良い」と言われたが、田井さんは上映形態を見直して、それまで大分では珍しかった単館系にチェンジする。

 大きく儲けなくてもギリギリ採算が取れる程度の作品で運営すれば何とかやって行けるだろうと、昭和64年1月7日に『ベルリン・天使の詩』でオープンした。3年で潰れても人の記憶に10年残る映画館でありえたら…という心積りで始めた「シネマ5」も昨年30年を迎えた。

 ガラス張りのエントランスの奥には、木の風合いが柔らかな受付がある。オープン以来少しずつコツコツと手を入れてきたロビーは、常にお客様が快適に過ごせるような工夫をしている。例えば、ロビーのところどころに受付からの死角を設けて、お客様が気兼ねなく自由にくつろげる場所を提供したり、場内に入るまでに小上がりのような階段を上がって更にもうひとつ小さな空間を抜けてようやくたどり着く迷路のような構造になっているのも工夫のひとつ。

 実際に「いつも入るところ間違っちゃうんだよなぁ」とスタッフに笑いながらグチをこぼす常連のお客様もいるほど。これは、田井さんが考える理想の映画館を形にしたもので、映画が終わってもすぐに外に出られない滞留時間が映画館には必要なのだという。

 ロビーで販売している映画関連書籍も買ってもらうのが目的ではなく、映画が終わっても帰らずにいられる理由を作っているのだ。映画館の暗闇によって映画と現実の距離が非常に遠くなる。だから、映画を観ているひと時は現実逃避ができるのだ。そのため、田井さんは上映が終わって場内の明かりが点くタイミングや速度には最善の気を配っているという。つまり、観客を現実の世界にゆっくりとソフトランディングしてくれているのだ。

 「映画に感動して、なかなか帰ろうとしないお客様が多いというのは理想の光景なんです」。平成23年3月12日には閉館が決まった「シネマセントラル」の運営を引き継ぎ「シネマ5 bis」をオープン。観客が映画館で映画を観る体験を豊かにできるものは何か?を常に模索し続けた結果、二つの映画館は自由にゆっくり映画と向き合える空間となった。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2011年9月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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