岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

現代社会の縮図 教育の現場から見つめた社会派映画

2024年06月19日

ありふれた教室

© if… Productions/ZDF/arte MMXXII © Judith Kaufmann, Alamode Film ©BorisLaewen ©ifProductions_JudithKaufmann ©Hanna-Lenz © Johannes Duncker

【出演】レオニー・ベネシュ、レオナルト・シュテットニッシュ、エーファ・レーバウ、ミヒャエル・クラマー、ラファエル・シュタホヴィアク
【監督・脚本】イルケル・チャタク

トルコからの移民という監督の過去の体験が反映されている

教室はけしてありふれたものではない。

ドイツでは学校制度が違うので、日本の学年年齢とは多少の差があるが…。ある中学の一年生(12歳)の担任となった新任の女性教師カーラは、それなりの緊張感のもと、クラスのより良い雰囲気作りのため、ホームルームにもルーティンを設けるなど、ささやかな自分らしさを忘れないクラス運営を心がけている。

ある日、校内で頻発する盗難事件がカーラの教室にも波及し、クラスの代表=級長を呼び出して、数人の教師による、尋問のような場が設けられる。

その教師たちの口からも、切羽詰まった状況による、やむなき選択という説明がされるが、この際の手法にちょっとしたボタンのかけ違いがある。 校長を中心にした学校の方針は、秩序の維持を堅持するためという題目のもと、強行な犯人探しの手段が取られ、そこでひとりの生徒が、通常の学校生活では不要の現金を所持していたことにより、疑いをかけられることになる。

学校に呼び出された親からは、子どもに現金を持たせた正当な理由が説明され、学校側の勇足だったことが判明し、更なる掛け違いは、しこりを生じさせてしまう。

ここでもうひとつ、その疑いをかけられた子どもが、移民系であることが、さりげない差別の構図を見せる。

そんな学校側の方針に不信感を抱いたカーラは、犯人探しの証拠を掴むため、独断であるトラップを仕掛ける。

教育現場の映画といえば、美しき師弟愛ものや、暴力、非行で荒れた学校という、正反対に振れる直情的なものが多いなか。本作は職業的な教師にとどまることなく、人と人が接する感情のやり取りが必要な職という難しさにまで踏み込む。加えて社会的な環境の変化を取り込む重層的な問題提起が出色で、対人関係の拗れから生じるトラブルは、学校に偏らない普遍性も備えている。

寛容なヨーロッパの変化。凶暴化する若年層の社会運動参加。虐めに発展する子どもが内包する残酷さ。見えてくるものが今と重なり背筋が震える。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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