岐阜新聞 映画部

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「宗教の戒律」を使って独占資本主義に無言の抵抗をする修道士

2018年05月11日

修道士は沈黙する

©2015 BiBi Film-Barbary Films

【出演】トニ・セルヴィッロ、ダニエル・オートゥイユ、コニー・ニールセン、モーリッツ・ブライプトロイ、マリ=ジョゼ・クローズ
【監督・原案・脚本】ロベルト・アンドー

 「告解は他言してはならぬ」というキリスト教の戒律を守る修道士と、世界経済に多大な影響を与えかねない先進国の財務相たちが、互いの価値観をぶつけ合い腹の探り合いをしていく上質のミステリーである。「真実は神のみぞ知る」という決着はよくあるが、「真実は修道士が独占している」というのがこの映画の最大のミソで、秘密を握っているのがスパイであれば、国家や企業の利害を守っている訳だが、こと宗教者となると秘密を守ることは宗教的意味付け以外になく、自己や他者に利益をもたらすものではない。この映画の面白さは、修道士という時代を超えた規律を守っている者が、貧富の格差がどんどん拡がっていく独占資本主義に対し、「宗教の戒律」という武器を使って無言の抵抗をしていくところである。
 映画は発せられる言葉(台詞)だけでなく、さまざまなメタファーやアイロニーが散りばめられている。例えば冒頭イタリア人修道士のサルス(トニ・セルヴィッロ)がドイツの空港に降り立つと、イスラム教の衣装を身にまとう人たちとすれ違ったり、宙に浮く大道芸人が出てきたりする。異教徒は価値観の多様性をあらわしており、G8の思い上がった意志を戒めているのであろうとか、「宙に浮く」というトリックは、会合がIMF専務理事のロシェ(ダニエル・オートゥイユ)をはじめとする財務相たちのトリックじみたパワーゲームにすぎないと言っているのであろう。
 随所に登場する動物たちは「小鳥に説教するアッシジの聖フランシスコ」のような美しい鳴き声の小鳥であったり、何故かサルスの前ではおとなしくなってしまう猛犬は、聖人がライオンを手なずけたという神話を思い起こさせる。これらは、生き馬の目を抜く暴力的な資本主義から一歩引いてみて、人間の幸福とはなんだ?と考えさせてくれる材料となってくる。
 なお、日本からも財務相が参加しているが、黒のボルサリーノを斜めにかぶった人ではないようだ。

『修道士は沈黙する』は、岐阜CINEXほか全国で公開中。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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