岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

1941年上海を舞台にしたスパイノアール映画

2024年05月29日

無名

Copyright2023© Bona Film Group Company Limited All Rights Reserved

【出演】トニー・レオン、ワン・イーボー、ホアン・レイ、森博之、チャン・ジンイー、ジョウ・シュン
【監督】チェン・アル

ワン・イーボーの美しさとトニー・レオンの円熟

昨年、日本でも公開された『サタデー・フィクション』(ロウ・イエ監督/2019年)は、太平洋戦争開戦直前の1941年の上海を舞台にしている。 フランスの諜報機関の息のかかる中国人女優が、地下組織と共謀して、日本軍の機密=暗号を盗み取ろうとするサスペンス劇で、危うい政治下、組織の利害や個人の思いが絡み合い、スパイたちが暗躍する物語。

同じく、昨年公開された『崖上のスパイ』(チャン・イーモウ監督/2021年)も題名にあるとおり、スパイを主人公にした映画。

時代は遡って1934年だが、舞台となるのは満洲国で、ソ連で訓練を受けた中国共産党のスパイ男女4人が、日本軍の蛮行を世に知らしめるため、同胞の脱出計画を兼ねた秘密作戦を敢行しようとする。

『無名』は、1941年の上海を舞台にしていること、日本軍、汪兆銘政権、中国国民党、中国共産党といった組織に関わりながらも、複雑な駆け引きが絡むことで、前記の2作と共通点も多く見受けられる。そして、映画の雰囲気として "ノアール" 色が際立つ作品になっている。

少し複雑なストーリーと、時系が行き来する展開に戸惑うかも知れないが、物語のパズルが嵌る瞬間には、ある種ののカタルシスが訪れる。

暗い絶望的なイメージを拭いさる、ゴージャスな美術は、単なる背景以上の雰囲気を醸しだす効果で、モノクロに近い明暗の画質に深みを与えている。

汪政権の "政治保衛部" に配属されるイエを演じるワン・イーボーの若き美しさ。

それを受けとめる、上司フーを演じるトニー・レオンの外連味と冷淡が混在しながらも、時折見せる人間味を失わない横顔が出色で、会話の中に散りばめられたさり気ない間が、極上の時間に誘う。

アクションは抑え込まれているが、緊張の糸を途切れさせることのないチェン・アル監督の演出も秀抜。

ただ、政治的に尻尾を振る嫌らしさに感じるほどに、日本軍は間抜けに過ぎるか?

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (5)
  • 検討する (0)

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

ページトップへ戻る