岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

自然豊かな町で起きる波紋のような物語

2024年05月16日

悪は存在しない

© 2023 NEOPA / Fictive

【出演】大美賀均、西川玲、小坂竜士、渋谷采郁、菊池葉月、三浦博之、鳥井雄人、山村崇子、長尾卓磨、宮田佳典/田村泰二郎
【監督・脚本】濱口竜介

見え難くかったり消えてしまったり

仰視

冬の木々に葉はなく、先にある空は曇天だが、存在するであろう雲は確認できない。時の流れは感じるが、何処に居て、或は何処に向かおうとしているのかは分からない。

明確に説明はされないが、長野県の山間の地、水挽町(みずびきちょう)が舞台となる。

語り口はゆったりとしている。男=巧の便利屋という生業。薪を作る、水汲みの作業が淡々と映し出される。丸太の三ツ割や斧使いに熟練を感じさせ、水汲みの単純作業にも繊細さを見せる。

巧とひとり娘の花との会話は森の木々についての問答で、木の見分け方や棘のある枝に対する注意が授けられる。

良好な父娘関係に見えるが、母の不在については説明されない。もうひとつ気になるのが巧の "健忘症"(?)…花の迎えの時間や会合の開催を忘れている。これは単なるうっかりではないように思える。

水挽町には、"グランピング場" の建設計画があり、東京からやって来る企業と町民を交えた説明会が開催される。豊かな自然を破壊しかねない開発に対する住民の懸念と、誠意を前面に押し出す開発者とのやりとりは、取り立てて新しさを感じない、ありきたりのすれ違いの問答に見える。加えて、気になるのは、緊迫感すらない、予定調和の進行で、ここから想像できるのは、自然の摂理を乱す資本の乱入といった、社会派的なメッセージを語るわけではないことの示唆なのか?

開発業者が門外の芸能事務所であること、時がコロナ禍であること、補助金の獲得のための強行であること、など、背景の情報は、一見、丁寧に提示さている。その反面、水挽町への再訪問へ向かう車の中の担当社員の会話、仕事を絡めた人生論には、空々しい薄味な違和感すら感じる。

終盤、巧の健忘は花の行方不明という事態を招き…一気に騒々しい展開になるが…。

国際的にも高く評価されている濱口竜介監督作品を観る…気合いと緊張は持続されるが、余韻には辿り着けない、空洞のような後味が尾を引く。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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