岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品ビニールハウス B! 負のスパイラル、韓国の社会問題に触れた快作 2024年04月22日 ビニールハウス © 2022 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED 【出演】キム・ソヒョン、ヤン・ジェソン、シン・ヨンスク、ウォン・ミウォン、アン・ソヨ 【監督・脚本・編集】イ・ソルヒ 現代の世界が抱える現実と矛盾 私が好きなタイプの映画は、不幸や我慢の連続でも最後に救いがある映画だが、『ビニールハウス』は、元々貧しく社会から隔絶されたような人の負の連鎖がどんどん加速していき、最後は絶望的に終わっていく。 それでもこの映画が好きなのは、IT等により便利になった現代の世界が抱える現実と矛盾に鋭く切り込んでおり、「頑張れば未来がみえてくる」と偽善的に単純化していないところだ。 主人公のムンジョン(キム・ソヒョン)は、少年院にいる息子の出院を待つシングルの訪問介護士だ。ビニールハウスに住む彼女は、認知症の人の介護や高齢化に伴う生きがいの問題、仕事の種類による経済格差の現実、現代人の孤独と自傷願望などの問題をこれでもかと抱え込んでいる。 なかでも私が頭が下がる思いだったのは、元大学教授で盲目のテガン(ヤン・ジェソン)の認知症の妻ファオク(シン・ヨンスク)に対する介護だ。甲斐甲斐しくお世話をしているのに、ファオクからは容赦ない悪態がとんでくる。これに対して、怒りをぶつけたり感情をあらわにするでもなく介護をする。ファオクの死はあきらかに事故だが、これで責任をとらされたらやってられない気持ちだろう。 ファオクの死を隠そうとしたのが直接的な負の連鎖の始まりだが、間接的にはもっと前から始まっているのだ。 やはり認知症で入院中のムンジョンの母チュンファ(ウォン・ミウォン)をテガンの家に送り込んで誤魔化そうとする強引な展開は、映画的には許される設定だ。テガンは気が付いていたのかもしれないが、自分も認知症が始まったのだとしてチュンファを道連れに、ある選択をする。 1994年生まれのイ・ソルヒ監督の初の長編映画は、田舎の風景にポツンと佇むビニールハウスのビジュアルや、サスペンスフルで濃密なストーリーで、新人監督とは思えない作品を作り上げた。「ビニールハウス」という韓国の社会問題にも触れた快作である。 語り手:ドラゴン美多中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。 100% 観たい! (7)検討する (0) 語り手:ドラゴン美多中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。 2024年07月23日 / 青春18×2 君へと続く道 切なさ溢れる抒情的恋愛映画の秀作 2024年07月22日 / 青春18×2 君へと続く道 ピュアな恋を描いた大人のラブストーリー 2024年07月22日 / 青春18×2 君へと続く道 初恋の思いを辿る台湾=日本合作恋愛映画 more 2022年05月11日 / 豊岡劇場(兵庫県) 豊岡で暮らす人たちと作り上げる新しい街づくりの拠点。 2024年06月12日 / シネマポスト(山口県) 下関の漁港口にあった戦後から続く郵便局を映画館に。 2020年03月04日 / 青森松竹アムゼ(青森県) ご当地映画を応援しようという観客の熱気溢れる雪国の映画館 more
現代の世界が抱える現実と矛盾
私が好きなタイプの映画は、不幸や我慢の連続でも最後に救いがある映画だが、『ビニールハウス』は、元々貧しく社会から隔絶されたような人の負の連鎖がどんどん加速していき、最後は絶望的に終わっていく。
それでもこの映画が好きなのは、IT等により便利になった現代の世界が抱える現実と矛盾に鋭く切り込んでおり、「頑張れば未来がみえてくる」と偽善的に単純化していないところだ。
主人公のムンジョン(キム・ソヒョン)は、少年院にいる息子の出院を待つシングルの訪問介護士だ。ビニールハウスに住む彼女は、認知症の人の介護や高齢化に伴う生きがいの問題、仕事の種類による経済格差の現実、現代人の孤独と自傷願望などの問題をこれでもかと抱え込んでいる。
なかでも私が頭が下がる思いだったのは、元大学教授で盲目のテガン(ヤン・ジェソン)の認知症の妻ファオク(シン・ヨンスク)に対する介護だ。甲斐甲斐しくお世話をしているのに、ファオクからは容赦ない悪態がとんでくる。これに対して、怒りをぶつけたり感情をあらわにするでもなく介護をする。ファオクの死はあきらかに事故だが、これで責任をとらされたらやってられない気持ちだろう。
ファオクの死を隠そうとしたのが直接的な負の連鎖の始まりだが、間接的にはもっと前から始まっているのだ。
やはり認知症で入院中のムンジョンの母チュンファ(ウォン・ミウォン)をテガンの家に送り込んで誤魔化そうとする強引な展開は、映画的には許される設定だ。テガンは気が付いていたのかもしれないが、自分も認知症が始まったのだとしてチュンファを道連れに、ある選択をする。
1994年生まれのイ・ソルヒ監督の初の長編映画は、田舎の風景にポツンと佇むビニールハウスのビジュアルや、サスペンスフルで濃密なストーリーで、新人監督とは思えない作品を作り上げた。「ビニールハウス」という韓国の社会問題にも触れた快作である。
語り手:ドラゴン美多
中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。
語り手:ドラゴン美多
中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。