岐阜新聞 映画部

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夫婦関係が崩壊していく様がリアルな、暴露ミステリー

2024年04月09日

落下の解剖学

©2023 L.F.P. – Les Films Pelléas / Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne‐Rhône‐Alpes Cinéma

【出演】ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール、アントワーヌ・レナルツ
【監督】ジュスティーヌ・トリエ

プライドもあり弁の立つ妻と、逆恨む嫉妬に狂った夫

『落下の解剖学』は、リューベン・オストルンドが審査委員長を務めた第76回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞、第96回アカデミー賞では脚本賞に輝いた傑作である。

物語は事故か自殺か殺人か?という法廷ミステリーの体裁をもちながら、ある夫婦関係が崩壊していく様を徹底的に裁判で探られていく、ワイドショー的な暴露ミステリーである。

ベストセラー作家のサンドラ(ザンドラ・ヒュラー)の夫サミュエル(サミュエル・タイス)が、雪山の自宅山荘で転落死した。事件性を疑った当局により起訴され裁判になるわけだが、徐々に明らかになっていく夫婦関係の真実は、転落死した事実よりも興味深く、インパクト強く迫ってくる。

見えてくる関係性は、家事や育児もそこそこに一家の屋台骨を背負っているというプライドもあり弁の立つ妻と、アイデアを横取りされたと逆恨む嫉妬に狂った夫という構図だ。

性に関しても柔軟で家事分担などリベラルなサンドラに対し、サミュエルはちっぽけな男のプライドで家事分担の割合について抵抗するも、サンドラは「そういうことははっきり言って」と逆に追い込んでしまう。妻はあくまでも正しいし、夫は「おっしゃるとおりでございます」とひれ伏すしかないが、沸々と怒りはため込まれていくのだ。

裁判に持ち込まれた夫婦げんかの様子を録音したテープを聴いていると、何もかも言いくるめてしまうサンドラと、離婚裁判用に有利な証拠を集めておこうと夫婦喧嘩を録音するサミュエルのしたたかさが見えてくる。実に怖い光景である。

可哀そうなのは視覚障害のある息子ダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)だ。両親がそんな状況であったことを裁判で知ることとなり、さらに自分の証言次第では母親が有罪となってしまうのだ。

ダニエルの証言がクライマックスだが、それは観てのお楽しみ。芸術的にも娯楽的にも優れたリアルなヒューマンドラマである。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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