岐阜新聞 映画部

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物静かな少女コットちゃんが主役の、物静かな映画

2024年03月22日

コット、はじまりの夏

© Inscéal 2022

【出演】キャリー・クロウリー、アンドリュー・ベネット、キャサリン・クリンチ、マイケル・パトリック
【監督・脚本】コルム・バレード

静かな感動で胸がこみあげてくるラストシーン

『コット、はじまりの夏』の原題は、「An Cailin Ciuin」で「物静かな少女」という意味のゲール語だ。そのタイトルの通り、アイルランドの自然豊かな田舎町に住む9歳の少女コットちゃん(キャサリン・クリンチ)は、内気で口数の少ないおとなしい女の子である。

4人兄弟(姉2人弟1人)の3番目で、母親と牛のダブル出産で忙しい家族から、夏休みの間コットちゃんただ一人叔父叔母夫婦の元に預けられる。

「なぜ自分だけ?」と心の中では思っていて不安がいっぱいだろうが、「我慢するしかない」と子どもながらに自分に言い聞かせる気持ちが切なくて、見ているこちら側にもコットちゃんの寂しさが伝わってくる。

微笑みを絶やさない優しい叔母さんのアイリン(キャリー・クロウリー)と、寡黙でとっつきにくいが根は優しい叔父さんのショーン(アンドリュー・ベネット)の夫婦。ジャガイモの皮むきをしたり、水汲みをしたり、髪をとかしてもらったり。

叔父さんはコットちゃんに「足が長いなあ」と言って、郵便受けのある門まで走っていかせて郵便物をとってこさせ、「今日は〇秒だった。昨日より〇秒早かった」とさり気なく言う。無骨な叔父さんに段々と心を開いていく様子がよくわかる名シーンだ。

コットちゃんに与えられた部屋には汽車の図柄の壁紙が貼ってあり、少年ぽいシャツとジーンズが与えられる。説明はないが、観客には何故そうなのかはおおよそ察しがついてくる。

口さがない近所のおばちゃんから興味半分に話して聞かされた一人息子の死。幼いコットちゃんの心の中に、叔父叔母夫婦の静かな悲しみが染み込んだに違いない。

夏休みが終わり放蕩者の父がいる自宅へ帰ることになるコットちゃん。余分な説明は一切ないが、静かな感動で胸がこみあげてくるラストシーンは、涙無くしては見られないのだ。

「物静かな少女」が主役の、まさに「物静かな映画」である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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