岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

孤独な少女が殻を破るまでのひと夏の物語

2024年03月22日

コット、はじまりの夏

© Inscéal 2022

【出演】キャリー・クロウリー、アンドリュー・ベネット、キャサリン・クリンチ、マイケル・パトリック
【監督・脚本】コルム・バレード

さりげない日常が輝きを増す一瞬見つめる

9歳の少女コットは孤立していた。

1981年のアイルランドの田舎町が舞台。両親、多くの兄妹に囲まれた賑やかで騒々しい日常。

家長である父はギャンブル好きで粗野な男。母は臨月に近い体で、頼りない夫に半ば呆れ、多くの子どもをやり過ごし、何とか家事に対応している。

そんな中、コットは寡黙だった。決して両親や兄妹が嫌いなわけではないが、ひとりでいることが好きだった。時に周囲はそこに違和感を感じ、彼女から距離を取る。

夏休みが始まる日、コットは農場で牛飼いを営む、親戚のキンセラ夫婦のもとに預けられることになる。

アイリンとショーンのおばとおじは、コットの両親よりも年上で、人見知りでもある子どもにはすぐには馴染めそうもなく、試練のようにも感じられるのだった。

監督のコルム・パレードは、子どもや家族の絆を描いたドキュメンタリーを手がけてきた映像作家で、本作が初の長編劇映画となる。アイルランドの作家クレア・キーガンの小説を原作とした脚本も自ら手がけている。

大人の顔色を窺うようなコットの素振りを察したキンセラ夫妻は、敢えて腫れものに触るようなこともせずに、生活のひとつひとつをありのままに見せていく。

農場での収穫、井戸までの水汲み、乳搾りなどの日常をコットは教えられるのではなく、見て覚えていく。

牛舎の掃除を自らこなすようになるコット。郵便ポストまでの長い道のりに、速く走るというゲーム性を加えて愉しみを見出す。

夫妻には子どもを事故で亡くしたという哀しみの過去があった。

コットを演じたキャサリン・クリンチは映画初出演とは思えない、心の揺らぎを繊細に演じている。

ラスト、一気に感情が弾ける瞬間のコットの躍動が、静かな感動に導く。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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