岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

かけがえのない日常を慈しむように描いた秀作

2024年03月13日

PERFECT DAYS

ⓒ 2023 MASTER MIND Ltd.

【出演】役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和
【監督】ヴィム・ヴェンダース

役所広司の味わい深い演技が素晴らしい

「ベルリン・天使の詩」などで知られるドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースが撮った「PERFECT DAYS」は、東京を舞台に日常のかけがえのない営みを慈しむように描いた秀作。

東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山という初老の独身男を演じる役所広司の味わい深い演技が素晴らしい。役所広司は、カンヌ国際映画祭の男優賞をはじめ、キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。

ヴェンダース監督は平山の日常生活を丹念に描く。目覚めると布団をたたみ、洗顔して髭を剃り、植物の鉢に水をやる。アパートの前の自販機で缶コーヒーを買って、ライトバンで好きなロックのカセットテープを聴きながら仕事に向かう。渋谷区内のトイレを清掃し、昼食は神社の境内で摂る。境内では木漏れ日の写真を撮ったりもする。夜は布団に横になり就寝時間まで本を読む。休日には古本屋に寄り、馴染みの小料理屋に行く。そのような平山の生真面目な仕事ぶりと、質素だが充実した日常が淡々と描かれる。

平山は極端に無口な男で台詞は少ない。「ケイコ 目を澄ませて」で岸井ゆきのが演じた障害のあるケイコを別にすれば、これほど台詞の少ない主人公は珍しいのではなかろうか。しかし役所広司は、その一挙手一投足、その佇まいで観る者を釘付けにし作品を支えている。

後半に平山を訪ねてくる家出した姪と、彼女を迎えに来た平山の妹との場面から、平山には訳ありの過去があることが垣間見える。映画は多くを語らないが、それが現在の平山の穏やかな人柄を形成したのかもしれない。良い意味で余白のある作品で、説明しすぎないのが美点のひとつになっている。

小津安二郎を敬愛するヴェンダース監督らしく、スクリーンサイズはスタンダードサイズである。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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