岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

自分が想像できる多様性だけを礼賛してはいないか?

2024年03月04日

正欲

©2021 朝井リョウ/新潮社 ©2023「正欲」製作委員会

【出演】稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香、山田真歩、宇野祥平、渡辺大知、徳永えり、岩瀬亮、坂東希、山本浩司
【監督・編集】岸善幸

異性愛でも同性愛でもない性的指向

性別や人種・国籍、宗教・信条、障害の有無、価値観の違いなどの「多様性」や、性的指向の「LGBTQ」を認め尊重していくのが昨今の考え方であるし、私も当然のように思っている。

しかしそこには、理解できないが認めるという「レッテル貼り」をして差別化し、「ひとくくり」にしてはいないかと不安になったり反省したりもする。

『正欲』を観ていると、知ったような顔をして自己満足に陥った人たちに、その偽善性を突きつける。

一例をあげると、学祭のミスコンに疑問を持った神戸八重子(東野絢香)たちが「ダイバーシティフェス」を開催して成功し自信を得た様子を見て、出演依頼をしたダンサーの諸橋大也(佐藤寛太)が吐き捨てるように言う。

「自分が想像できる多様性だけを礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな」。

中学の同窓会で再会した「この世の中は明日も生きたい人のためにあり、自分のように明日死んでもいい人間のものではない」と考える佐々木佳道(磯村勇斗)と、実家暮らしで代わり映えのしない毎日を過ごしている桐生夏月(新垣結衣)の2人は、中学生の時から水に性的興奮を覚える「水フェチ」である。

異性愛でも同性愛でもない性的指向は共感もしにくいし、理解されないどころか誤解されてしまう。しかし2人のSEX抜きでの共同生活は、居心地がいいのである。

“普通”の代表選手は、エリート検事の寺井啓喜(稲垣吾郎)だ。不登校でユーチューバーになりたいという息子に対して、学校へ行くという「当たり前」のことができないと怒っている。理解はしていないが、不登校に関する干渉はあまりしない。

題名は「性欲」ではなく正しい欲と書いて「正欲」である。果たして「正しい欲」なんてあるのか?それは誰が決めるのか?「理解する」という上から目線でなく、「存在する」でいいではないか?

映画は、一歩踏み込んだ問題提起をしている。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (11)
  • 検討する (0)

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

ページトップへ戻る