アン・テジン監督 高い完成度の恐るべき初長編作品

李王朝は、1392年に成立した統一王朝である。

建国したのは李成桂で、李氏が王位を継承したから "李朝" あるいは "李氏朝鮮" という言い方がされたが、本国ではそういう言い方はしない。李成桂が立てた国名が "朝鮮" なのだから、わざわざ "李氏" をつけて言う必要はない。

韓国では、王朝ものは映画のみならず、テレビドラマでも多くの作品があり、ヒット作も沢山ある。

日本では時代劇を分類する時、その時代に合わせた呼称を使い、戦国ものとか、平安朝ものとか、幕末ものなどと呼ぶが、文学的な分類をすれば、歴史ものと時代ものの区分が分かり易い。

歴史という史実を重視するか、時代の中で生まれたであろうフィクションを描くかで、その中身は大きく異なる。

仁祖(ジンソ)は、李氏朝鮮時代の第16代の国王で、1623年4月12日に即位した。

映画の冒頭、この国王・仁祖にまつわる記録文献「仁祖実録」の一節が紹介される。

世継ぎであった王の子が、「高熱に苦しみ全身の穴から血を流して死んだ」という記述。

物語は盲目の鍼医ギョンスが、機転と才覚を認められ、宮廷医として召し抱えられるところから始まる。ギョンスには重い病を患う弟がいて、その治療費のためにも、勤めを無事にこなさければならない責任があった。

その頃、隣国の大国 "清" に人質として囚われていた、仁祖の世継ぎ候補である王子が帰って来る。

時代背景としては、クーデターにより王位についた仁祖は、その基盤が脆弱で、清の属国の立場にあった。王子を人質に取られるのは、日本の戦国時代劇にもよく登場する、和睦を装う手段である。

ある夜、ギョンスは王子の死を暗殺の場を "目撃" する。見えないはずの鍼医が目撃者となった事で巻き込まれることになるドロドロの血の争い。二転三転する展開はスリリングかつ重厚さを備え、最後まで目が離せない。