岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

フロンティア・スピリッツのある、非正統派西部劇

2024年02月16日

ファースト・カウ

©︎ 2019 A24 DISTRIBUTION, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

【出演】ジョン・マガロ、オリオン・リー、トビー・ジョーンズ
【監督・脚本】ケリー・ライカート

主役はユダヤ系のクッキーと中国系のキング・ルー

「西部劇(ウエスタン)」とは、アメリカ西部の開拓時代を背景にカウボーイやガンマンが活躍するアクション映画で、1910年頃にジャンルとして確立された。厳密な定義はないがジャンルイメージは強烈だ。

当初はネイティブアメリカン(インディアン)を悪役とした勧善懲悪な物語が平然と作られていたが、人種差別撤廃と共に西部劇の内容も変化してきた。

ケリー・ライカート監督の『ファースト・カウ』は、1820年代の太平洋岸北部オレゴン州の土地を舞台に、ボストンのパン屋で技術を身に着けたユダヤ系料理人のクッキー(ジョン・マガロ)と、世界を旅してきた中国人キング・ルー(オリオン・リー)が主役の、非正統派西部劇である。2人とも移民第一世代で言ってみればまだ「アメリカ人」では無かったわけだ。

新天地アメリカで成功を夢見る「アメリカン・ドリーム」は、特に1848年頃から始まったゴールドラッシュが有名であるが、クッキーやルーが生きた1820年代だって夢のために懸命に頑張っていたのだ。

西部劇と言えば、モニュメントバレーに代表される赤茶けた荒漠たる荒野や、牛が放牧される緑の大平原のイメージがあるが、オレゴンの森の道なき道は落ち葉に覆われたぬかるみで、一帯は湿気でじめじめしている。そんな中の掘っ立て小屋に住む移民たち。

かつての西部劇のカッコよさは微塵も無いし、地域では粗暴な奴らが力で支配し、頭の良い連中は資本家となってきている。

クッキーとルーは、土地に一頭しかいない乳牛のミルクを真夜中に忍び込んで盗み、ドーナツに混ぜて提供する。その味は評判を呼び、ささやかな成功を手に入れる。しかしそんな綱渡りのビジネスモデルがいつまでも上手くいくわけはない。

アメリカン・ドリームは厳しくもあったわけだが、2人の友情をベースにしたフロンティア・スピリッツはいまの時代へも受け継がれるべきメッセージでもあるのだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (12)
  • 検討する (0)

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

ページトップへ戻る