岐阜新聞 映画部

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脱北の実態に迫る、緊張感あふれる傑作ドキュメンタリー

2024年02月15日

ビヨンド・ユートピア 脱北

© TGW7N, LLC 2023 All Rights Reserved

【監督・編集】マドレーヌ・ギャヴィン

極めて危険で命がけの撮影、本物のスリル

北朝鮮を題材にしたドキュメンタリーは、専制的で残虐だが一方で滑稽な統治体制を冷静に見つめた傑作が多い。

例えば、ポーランドの国営テレビが建国40周年の記念式典の模様を撮影した『金日成のパレード』(1989)では、その狂った美学をまざまざと見せつけられるし、北朝鮮を支援する団体に密かに加入した撮影者が闇のビジネスの実態に迫る『ザ・モール』(2020)では、北朝鮮の武器商人の素顔が目の当たりに映し出される。

クアラルンプール空港で暗殺された金正男殺しの犯人とされた女性が主役の『わたしは金正男を殺してない』(2020)では、その驚愕の真実が暴かれる。

そして『ビヨンド・ユートピア 脱北』は、「脱北」の実態を知ることのできる衝撃のドキュメンタリーであり、その驚くべき映像は極めて危険で命がけの撮影だ。

この「脱北」という用語であるが、1993年までは「亡命」と呼ばれることが多かったが、北朝鮮を脱出した人が中国をはじめとする韓国国外へとどまるなど多様化し始めたため、1994年からは「脱北」という呼称が定着した。そこから数えて2023年までに韓国に入国した「脱北者」は約3万4千人となっている。

本作では複数の脱北者が登場するが、中心になるのは、お婆ちゃん、娘夫婦、孫2人の5人家族だ。脱北ブローカーは、多額の報酬と引き換えに脱北を手助けするが、その家族構成から売春業者や農村地帯には売れず市場価値が無いため、韓国にあるボランティア団体が金を出すことになる。その中心人物がキム牧師で、勇敢にも顔を出している。

この映画の凄さは、その撮影と共に、脱北ビジネスの実態に迫っている点だ。命がけの手助けにはそれに見合ったお金を払う。いわば資本主義の論理であり、「正義」だけでは捉えられないのである。

安全国家タイへ脱出する迄のスリルは、これが本物だけに半端ない緊張感だ。これもまた傑作である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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