岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

風光明媚な山梨の桃源郷にある小さな映画館

2018年09月05日

塩山シネマ(山梨県)

【住所】山梨県甲州市塩山上於曽1138-1
【電話】0553-33-2451
【座席】120席

 新宿から特急あずさに乗って1時間半…9年前の秋、甲州市の塩山という街を訪れた。10月の山梨は夏の暑さと打って変わって、山から吹く風がひんやりと心地よい。古今和歌集に詠まれている「志ほの山 差出の磯に すむ千鳥 君が御代をば 八千代とぞなく」の「志ほの山」とは、市の南西部にある「塩ノ山」のことで、街の名前はここに由来するという。

 駅からは、中里介山の小説「大菩薩峠」で知られる日本百名山の大菩薩嶺が見える。塩山は県下有数の桃の産地で、春先には桃の花が山の斜面を覆い、それがまるでピンク色の絨毯のようであることから桃源郷とも呼ばれている。また、市内には武田信玄ゆかりの神社仏閣や歴史文化遺産が数多く残されており、駅前に江戸時代後期の旧高野家住宅をそのまま残した歴史公園があったりする。こんなに見所が多いにも関わらず、街は観光地然としておらず、自然と調和した落ち着いた佇まいを見せる。これぞ正に風光明媚…とても美しい街だ。

 駅から線路沿いを10分ほど歩く。緩やかなカーブを道なりに進んだあたりの路地を入ると、住宅地の真ん中に突然、目にも鮮やかな青い壁の建物が現れる。昭和32年に設立した映画館「塩山シネマ」だ。創業者は、戦後、乾物の卸問屋で財を築いて40館もの映画館を持っており、山梨の興行史を語る上では欠かせない名士だった。最盛期は自転車の荷台にフィルム缶を積んで劇場を行き来していたというが、やがて映画も斜陽期を迎え、現在は「塩山シネマ」だけとなってしまった。一度は閉館も考えたという三代目館主の渡邊真吾さんは、自分の代で映画館を潰したくない…と存続の道を選ぶ。

 受付に座っていると、ここが映画館と気付かず素通りしてしまう人が意外と多いことに気づいた渡邊さんは、まず目立つように外壁を青く塗り、場内の座席と映写機を入れ替えた。ロビーに入るとまず目に入るのは、中央に展示されている創業時から使用されていた映写機(中には本物のフィルムが入っており、自由に操作をさせてもらえる)。メンテナンスが行き届いたボディーは、役目を終えた今でも現役で使えそうだ。そして、現在は閉鎖されている2階席に通じる階段の壁には、懐かしい映画のポスターが貼られており、それを眺めているだけであっという間に時間は過ぎてしまう。

 現在、子供向けアニメを中心としているため、映画館は土日祝日のみの営業。さらに、2台の移動映写機と重い機材を車に積み込んで、映画館が無い市町村に出向いて上映会も行っている。隣町にある「横溝正史館」のこけら落としでは『犬神家の一族』を上映して大盛況だった。

 子供の頃から場内の最後列でお客さんの背中を見て育ったという渡邊さんは、今でも映画を上映しながら、お客さんの背中を見るのが何よりも楽しいと言う。「面白い映画の時は、劇場全体がドッと盛り上がる。そんな光景を後ろで見ているだけで幸せです」と相棒の映写機を撫でる。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2009年10月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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