実態を可視化するための命懸けの撮影

脱北者は朝鮮民主主義人民共和国=北朝鮮から国外脱出した北朝鮮国籍者のことを言う。

大韓民国=韓国における法律上の用語では、北韓離脱住民と称される。

脱北者はおもに韓国に、またアメリカ、ヨーロッパに居住し、日本に住む人たちもいる。

本国北朝鮮では、処罰、処刑の対象となり、隣国、中国では不法滞在者として扱われる。

最近では『ファイター、北からの挑戦者』(2021年公開)で、脱北者として韓国に逃れて来た女性ボクサーが描かれ、昨年公開された『不思議の国の数学者』で、主人公の高校生に強い影響を与える天才数学者は、脱北者という設定だった。

1993年以前は脱北者という呼称は存在しなかった。94年に脱出者が急増し、中国に留まる不法滞在者や、その他の国に留まる人が現れるなど多様化した。そこでそれまでの亡命者扱いが困難となったため、脱出した北朝鮮住民を指す呼称が必要になり、韓国政府は "脱北者" を用語として使うようになった。先にあげた "北韓離脱者" は97年に公用化された呼称である。昨年までの脱北者で韓国に定住した人は3万3千人に達するが、実数ははるかに多い。

韓国映画では、先にあげた作品の他にも、脱北者を描いたものが目立つようになった。

『ビョンド・ユートピア 脱北者』は、脱北を試みる家族、人たちに密着したドキュメンタリーである。

韓国で牧師をするキム・ソンウン師は、これまでに1000人以上の脱北者を支援してきた。牧師の指揮下にあるブローカーは、経由国となる中国、ベトナム、ラオス、タイに身を潜め、牧師からの指示に対応する。

目指す地は隣国韓国でありながら、隣接する国境越えはままならない。遠回りの旅は移動距離1万2千キロに及ぶ。

不思議の国の独裁に声を上げない人たちを憂うのではなく、声すら上げられない恐怖を思い知る痛烈な映画に震える。