岐阜新聞 映画部

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公民権運動に重要な、エメット・ティル殺害事件を忘れない

2024年01月18日

ティル

© 2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved.

【出演】ダニエル・デッドワイラー、ウーピー・ゴールドバーグ、ジェイリン・ホール、ショーン・パトリック・トーマス、ジョン・ダグラス・トンプソン、ヘイリー・ベネット
【監督・脚本】シノニエ・チュクウ

ティル君の死を決して無駄にしてはならない

1950年代後半から始まった「公民権運動」は、アメリカの黒人の基本的人権を要求する運動で、当時無名の26歳のキング牧師が指導した「バス=ボイコット事件」(1955年12月6日)が初期の運動として知られるが、同年8月28日にミシシッピ州で発生した「エメット・ティル殺害事件」のことはあまり知られてない。私もこの映画を観るまでは知らなかった。

シカゴから親類のもとへやってきた14歳の少年が、食料品店を営む白人女性に「口笛を吹いた」という理由で拉致され殺される。しかし白人陪審員のみで構成された裁判では、起訴された加害者が全員無罪となる。こんな理不尽な結果に憤った母親メイミーが、息子の遺体を公開し全米に衝撃を与える。

公民権運動において非常に重要な物語をアメリカ人でさえ知らない人がたくさんいる中で、この事件に生涯に渡って取り組み続けている本作の脚本兼プロデューサーのキース・ボーシャンが、29年目にして実現したのが本作である。

映画に描かれる事実は痛ましく、凄惨なリンチの末殺された少年の遺体は激しく損傷されている。この事実から目を背けてはならない。シノニエ・チュクウ監督も、キース・ボーシャンもそれをしっかと見せる。現代でも黒人が理不尽に殺されていることを忘れてはならないと。

それにしても母メイミー(ダニエル・デッドワイラー)は気丈だ。息子の死はもちろん悲しいが、この悲劇を黒人の人権に関する運動として世論に訴えていく。母の声は全米に響き、1964年には公民権法が成立、若きボブ・ディランも「エメット・ティルの死」を歌うのだった。

のちに加害者たちは殺害を白状するのだが、人種差別に基づくリンチを連邦法の憎悪犯罪(ヘイトクライム)とする「エメット・ティル反リンチ法」が制定されるのは、事件から67年後の2022年3月だ。

公民権運動の殉教者ティル君の死を決して無駄にしてはならない。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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