岐阜新聞 映画部

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終戦直後の日本をリアルに描いた傑作

2024年01月16日

ほかげ

©2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

【出演】趣里/塚尾桜雅 河野宏紀/利重剛、大森立嗣/森山未來
【監督・脚本・撮影・編集】塚本晋也

監督自ら担当した撮影と俳優陣の演技が見事

塚本晋也監督は、自主映画「鉄男」がローマ国際ファンタスティック映画祭でグランプリを受賞し、その後の作品も海外で高く評価され、ヴェネツィア国際映画祭では二度審査員も務めている。

2015年には市川崑監督により映画化された大岡昇平の戦争文学の代表作「野火」を再映画化し、風化しつつある戦争の悲惨さをリアルに描き、反戦のメッセージを観客に投げかけた。

そんな塚本晋也が監督・脚本・撮影・編集・製作の5役を務めた「ほかげ」は、「ゴジラ-1.0」のようにCGで空襲による焼け野原や瓦礫を再現しなくても終戦直後の日本をリアルに描ける事を証明し、戦場を描かずとも戦争の非人道的悲惨さを描ける事を証明した傑作。

戦争孤児の少年を狂言回しに、彼の目を通して描かれる戦争で家族を亡くした女や復員兵らが織りなすドラマは、同じ時代を描いた近年のどの作品よりリアルに感じられる。

家族を亡くし居酒屋で体を売るしか生きるすべのない女(趣里)、心を病んだ元教師の復員兵(河野宏紀)、戦場で上官から理不尽な命令を受け親友も殺された恨みから復讐を図る傷痍軍人(森山未來)。戦争による彼らの悲劇的な人生を描くばかりでなく、戦争の加害者としての日本を描くことも忘れてはいない。

ドラマはオムニバス的な3つのエピソードで構成され、戦場の回想シーンはなく、登場人物の言葉や行動により戦争の過酷さを描いた演劇的な作品ではあるが、塚本晋也監督自らが担当した撮影が素晴らしく、特に前半の居酒屋の室内シーンは出色の出来栄え。

子役の塚尾桜雅(目力が素晴らしい)をはじめ俳優陣はすべて好演。中でも趣里はキャリア最高の演技を見せてくれる。

私の2023年日本映画ベスト・テン第8位の作品である。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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