岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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塚本晋也監督のライフワークとなった反戦映画

2024年01月15日

ほかげ

©2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

【出演】趣里/塚尾桜雅 河野宏紀/利重剛、大森立嗣/森山未來
【監督・脚本・撮影・編集】塚本晋也

どん底に見えるほかげが希望の光だと願いたい

塚本晋也監督は、14歳の頃から8ミリ映画を撮り始めた。

日本映画界で永らく続いていた所謂、"撮影所システム" が衰退した70年代の後半頃からは、新たな才能の発掘の場がいくつか生まれた。

当時、東京を中心にバイブル並みの必須雑誌だったのが "ぴあ" で、ネットのない時代の情報収集の先端ツールだった。

そのぴあが主催したのが "ぴあフィルムフェスティバル(=PFF)" で、その第1回は1977年に開催された。

78年の第2回では、入選者に石井總互(現・石井岳龍)、長崎俊一、故・森田芳光の名前が見えるように、新人映画人発掘の登竜門だった。

塚本晋也は、88年(第11回)に、『電柱小僧の冒険』でグランプリを受賞し、翌年、発表した『鉄男』は、ローマ国際ファンタスティック映画祭でグランプリを受賞。一般映画への進出のきっかけとなっている。

『鉄男』は製作費1000万円、4畳半のアパートの部屋で、廃物を利用したSFXと、少数の仲間=スタッフで撮影された。

題名のとおり、モノクロの映像で鈍い光を放つ金属の肌感と、闇の底から輝く鉄男の眼光が強烈に印象に残っている。

敗戦後、廃墟と化した町が舞台。その片隅にかろうじて焼失を免れた古家で、女は居酒屋を営み、細々と命の灯を維持していた。それでもままならない生活のため、体を売ることを斡旋され、それにあがらうこともできないまま、自棄のような毎日を過ごしていた。

ある日、女の店に戦争孤児の男子が食べ物欲しさに盗みに入る。首根っこを押さえ込んだ子どもは、それからも女の店に入りびたるようになり、奇妙な共同生活が始まる。

塚本晋也監督は2015年に発表した『野火』以来、貫き続けている強い反戦の意志は、本作でも揺らぐことない。

女を演じる趣里の鋭い眼光。その根底にあるのが、絶望と生が背中合わせなのが何とも辛い。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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